電動機で羽根を回し、風を送り涼感を得る機械。扇風機の原型は古く、1832年(天保3)に出版された柳亭種彦(りゅうていたねひこ)の『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』に、団扇(うちわ)を放射状に配列し、ろくろ仕掛けで手回しにしたものがみられる。1885年(明治18)には納涼団扇車として特許を得ているが原理的には「田舎源氏」のものとほとんど同じである。電気を用い、今日の形の扇風機としたのはエジソンで、日本では1894年(明治27)に六枚羽根のものがつくられた。大正年代に急激に発達し、アイロンとともに家電製品ではもっとも普及していた。現在ではプラスチック技術の発達により、モーター部分や羽根保護網の金属部分を除き、ほとんどの部品が、カラフルで美しく精巧なプラスチックでできている。
扇風機で涼感を得るのは、気流により、体表面からの発汗その他分泌物の蒸発を促し、気化熱を奪うからで、それぞれのときに応じて、風速・風量が選べるように設計されている。しかし扇風機といえども、その使用を誤ると思わぬ事故となるので、とくに就寝時などはスイッチを切るか、タイマーを使用して首振りをさせるなど、局部的に長時間風を当てないようにする。とくに幼児、病人、老人、体の弱い人などは気をつけたい。
種類としては、使用する場所から、卓上扇、座敷扇、リビング扇、床上扇、あるいは置き場所の要らない壁掛け扇、天井扇などがある。また風の強さ、量、あるいは使用する人数により、小型・小風量の直径20センチメートルのものから、大風量の40センチメートルのものまで、数種類の羽根サイズがそろっている。なかでも30センチメートルのものが品数も多く、日本の家庭の標準的なものとなっている。構造の主要部は、スピード・首振り・タイマーなどのコントロールスイッチを組み込んだスタンド部分、羽根部分の高さ調節機構の組み込まれた支柱部分、風の方向を左右・上下に変えるネック部分、および首振り装置を組み込んだモーター、前後ガードで保護された羽根などから成り立っている。とくにほこりなどで汚れやすい羽根やガードなどは、工具なしで簡単に分解・組立てができて、清掃ができるようにしてある。最新式の扇風機は、手元でスピード切替えや首振り操作ができるワイヤレス・リモコン式のもの、あるいはマイクロコンピュータを内蔵し、快適な眠りに誘うよう時間とともに風のスピードをダウンさせるプログラムを組み込んだものなどがある。さらに、自然の風のようにランダムに強弱の風がつくれるようにしたもの、あるいは従来の左右首振りに加えて、上下にも首振りを行うようにしたものなど、いろいろなものがある。
[堀尾則泰]
暑さをしのぐため,風の流れで体感温度を下げる機器。江戸時代の戯作《偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)》(1832)の中に団扇車(うちわぐるま)の挿絵があり,これは手動扇風機といえよう。1868年のアメリカ特許にはぜんまい仕掛けの扇風機もあるが,電動モーターの軸にファンをつけた電気扇風機は89年にアメリカで商品化された。日本に輸入されたのは93年で,翌年には国産第1号が発売,大正時代に入り量産体制となった。1973年には世帯あたり普及率が90%を超えた。
執筆者:大村 直己
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