改訂新版 世界大百科事典 「サンプル値制御」の意味・わかりやすい解説
サンプル値制御 (サンプルちせいぎょ)
sampled data control
自動車の運転をするときには,たえず前方を注視し速度や進路の調整を行う。これに対して,室の暖房を調節するときには,ときどき温度計を見て暖房器のつまみを操作するのがふつうであろう。人手によらず自動制御を実施する際にもこの両様の方式が考えられる。前者を連続時間制御といい,後者をサンプル値制御という。すなわちサンプル値制御においては,制御の対象となる量を間欠的に,通常は一定時間間隔ごとに測定する(図1)。これをサンプリングといい,測定する時刻をサンプリング時刻,その間隔をサンプリング周期という。制御のための修正動作は,サンプリング時刻の中間でも加え続ける必要がある。これをホールドと称し,直前のサンプリング時刻での判断にもとづいて定めた修正動作を次のサンプリング時刻までそのまま保持する零次ホールド(図2-a),直前の二つのサンプリング時刻のものから直線的外挿を行う一次ホールド(図2-b)など,いろいろの方式がある。
サンプル値制御が採用されるには幾通りかの動機がある。第1は,レーダーによる追跡とか,直接測定できず関係諸量をもとに計算で求める化学組成などのように,データが間欠的にしか得られない場合である。次に,地上から制御する飛翔体など,多重通信系によって遠隔制御する場合もある。落下枠制御装置のように,検出器そのものは大きい力を出せないが,間欠動作によって十分な力を出させる特別な工夫もある。近年,サンプル値制御が重要視される理由は,マイクロプロセッサーの性能向上と低価格化により,ディジタルコンピューターによる制御が一般的になったことである。ディジタルコンピューターは間欠的にデータを読み込み,ある時間後に計算結果を得るものであるから,これを用いた自動制御は当然にサンプル値制御となる。それとともに,信号の振幅について量子化を行ってディジタル量に変換して読み込み,一方,計算結果はふたたびアナログ量に戻す,いわゆるアナログ-ディジタル変換(A-D変換),ディジタル-アナログ変換(D-A変換)を必要とする。図3にはディジタルコンピューターによる自動制御系の構成と,伝達される信号の形態を示す。
サンプリングによって情報が失われることのないように,サンプリング周期は十分短く,信号に含まれる最も周波数の高い成分の波長に比べて,理論的にはその1/2以下,実用的にはさらにその数分の1以下に選ぶ必要がある。
連続時間制御の理論と並んで,サンプル値制御の理論も体系化されている。連続時間制御と比べて理論面での特色の一つは,有限回のサンプリング周期で制御すべき量を目標値に一致させる〈有限整定制御〉が可能なことである。また,サンプル値制御の理論はディジタル信号処理,符号理論,反復的数値解法の理論とも密接な関連を有し,相互に影響を及ぼしあっている。
執筆者:須田 信英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報