翻訳|heating
一般に、暖房とは部屋を暖めることを意味し、英語のheatingを訳したものといわれる。しかし、暖房の目的を体を暖めることと考え、熱の伝わり方に従って分類すると、次の3種類の方法がある。
(1)直接暖かい物体に触れる方法。例として、火鉢、電気毛布などがある。これらは採暖の一種として扱い、通常は暖房の範疇(はんちゅう)に含めない。
(2)高温物体から出る放射熱により体または衣服の表面に直接熱を得る方法。例として、床暖房、輻射(ふくしゃ)型暖房器具などがある。これを輻射暖房とよぶ。
(3)温度の高い空気の中に身を置き、対流熱伝達による熱損失を防止する方法。室温を上げるいわゆる暖房がこの例である。
暖房といえば一般に室内の温度を上げることだけを意味するようであるが、人間にとって熱的に快適な環境には、単に室温だけでなく、上下温度分布、湿度、放射熱、気流などが関係する。一般には、測定のしやすい温度・湿度で環境評価する。わが国では住宅の場合、温度18℃、相対湿度50%、一般の作業室で温度22℃、相対湿度30%程度で良好な暖房が行われていると判断している。また、暖房器具からの排気ガスによる空気の汚染も注意すべき問題であり、十分な換気を行うことがたいせつである。健康的で効果的な暖房を行うには、これらの要素をうまくコントロールする必要がある。
[吉田治典]
暖房のもっとも原始的な姿は裸火による採暖で、調理用と併用して用いたと考えられる。わが国の「いろり」はその典型である。この方法は部屋から煙を排出するための大きい開口が必要であり、室温はさほど上昇せず、暖房効果は裸火からの放射熱により得られるため局所的で部屋全体には及ばない。古来よりこの方法は全世界に共通であるが、より高度の暖房方法を求めて各国で進歩した。しかし、現在の暖房方法の基本的進歩は欧米でなされたものである。
ヨーロッパでは、裸火による暖房効果を増すため、フードと煙突を設け、煙を有効に排出し効率を上げるくふうがなされた。これがイギリス暖炉の原型である。しかし、これでも効率は20~30%と低く、寒冷な北欧では室温が十分に上がらないため、火の前面を石やれんがで覆い、高温の面積を増し輻射の効果を増大させるくふうがなされた。石造ストーブとよばれるものである。また、同様の効果を鉄板で得るようにもなった。これをターケン板taken platteとよび、20世紀初頭まで用いられた。石造ストーブの効率をさらに増すため、煙を巧みに導き、炉内で長い経路を通過させ、煙から十分に熱を奪うくふうがなされた。ドイツのカッヘルオーヘン、オランダペチカ、ロシアペチカなどがそれであり、効率も70~80%と向上した。これらを総称して暖炉という。
その後、鋳鉄技術の進歩とともに、鉄製のストーブも現れたが、この進歩はアメリカにおいて著しい。それは、開拓当初の建物は木造が主流で暖炉を設けることが困難だったためである。なかでも投炭の手間が不用な貯炭型ストーブの発明以後、ヨーロッパにも逆輸入され、さらに改良が加えられてユンケル型などの優秀なストーブがつくられた。
アメリカでは、ストーブから発展した温風炉(ファーネス)を用いて空気を直接加熱し、風導(ダクト)で複数の部屋に供給するシステムが生まれた。これが温風暖房である。また、ヨーロッパでは19世紀中ごろから、建物の一か所でボイラーにより温水や蒸気をつくり各部屋に供給して放熱し暖房するシステムが生まれた。これらをあわせて中央式暖房(セントラル・ヒーティング)とよび、個別式暖房と区別する。この方式により室内空気の清浄度は飛躍的に高まった。19世紀末からは冷房技術の発達が著しく、暖房は空気調和設備の一機能として包含されることが多くなった。したがって、暖房設備としての発展はこの時点でいちおう完成したとみてよいであろう。
中国には床下に煙を通して床面を暖める炕(カン)がある。韓国のオンドルはこの発展型である。床暖房は現代においても高級なシステムである。
わが国の伝統的な暖房は、いろり、こたつ、火鉢を用いる採暖が主である。火鉢、こたつは中国から伝来したものである。こたつは中国の「足あぶり」に由来するといわれ、ふとんをかける現在の姿になったのは江戸時代であろうと推測されている。近代的暖房設備は、明治開国後、外国から導入された。大正時代になり、設計、製作とも国内でできるようになった。1960年代になると、ビルにおいては冷房も併用されるようになり、暖房設備のみを設けるビルは、寒冷地の建築や、夏期には使用しない学校などに限られるようになった。しかし一部の寒冷地を除いて、住宅では欧米のような中央式暖房設備の普及は進まず、現在でも個別暖房が主流である。
[吉田治典]
暖房器具とは、石油ストーブのように単独で暖房効果が得られる器具のことをいう。熱の伝わり方によって分類すると、〔1〕電気毛布、行火(あんか)、火鉢など体に直接熱が伝わる伝導型、〔2〕熱の反射板がないタイプの電気ヒーター、ストーブ類、ヒートポンプエアコンなど、空気を直接加熱して室温を上昇させる対流型、〔3〕熱の反射板をもち、一般に反射型とよばれるストーブ類、パネルヒーター、電気カーペットなど熱放射の効果を加味した輻射型、に分かれる。
現在は、熱源として石油、ガス、電気が用いられ、石炭など煤塵(ばいじん)、灰を多く出す燃料はほとんど使われなくなった。電気がもっとも衛生的なエネルギーであるが高価であるため、最近では効率のよいヒートポンプ式の暖房機の利用が増えている。排気ガスの出る器具はその排気を十分に行うことが重要で、不足の場合は一酸化炭素中毒により死亡することもある。こうした事故を防止するため、排気、または給排気とも、室内空気と切り離した別経路で行えるタイプの器具が市販されている。安全面から今後はこのタイプの利用が増えると思われる。
[吉田治典]
建物と一体化した暖房システムを暖房設備といい、暖房器具とは区別するが、明確に区別できないものもある。一般には、熱源機器を一か所に置く中央式暖房(セントラル・ヒーティング)をいう場合が多い。部屋に放熱器を置いて直接加熱する方式を直接暖房、部屋に加熱した空気を供給する方法を間接暖房または温風暖房という。
直接暖房は、放熱器の放熱方法により、対流式、輻射式の2種類に分けられる。対流式は放熱の大半が対流伝熱によるもので、鋳鉄製放熱器、ベースボードヒーター、ファンコンベクターなどが放熱器として用いられる。輻射式は放熱の大半が放射によるもので、放熱面は通常床面に設け、輻射パネルとよばれる。輻射式による暖房は上下温度の差が少ないので、天井の高いホールや会議場、床面に近いところも生活空間となる住宅などに適する。
直接暖房はまた、熱を運ぶ熱媒により区別することもある。熱媒が蒸気の場合を蒸気暖房、温水の場合を温水暖房という。蒸気暖房はさらに、蒸気の圧力により、高圧式、低圧式、ベーパ式、真空式に分類する。また、供給管と還水(凝縮水)管が共通のものを一管式、別のものを二管式、還水が重力によるものを重力還水式、真空ポンプを用いて還水するものを真空還水式とよぶ。蒸気は、圧力が高いほど凝縮温度が高く、制御上、安全上取扱いがむずかしく、一般ビルでは低圧式か真空式が用いられることが多い。また通常、配管法は二管式を用いる。
温水暖房と比べて蒸気暖房は、暖房開始時、短時間に所定の室温にすることが容易であるが、騒音が発生しやすい、制御・管理がむずかしいなどの欠点をもつため、最近では用いる例が少ない。
間接暖房は、空気調和器やファーネスで加熱した空気をダクトで部屋に導き暖房する。この際、空気をエアフィルターで清浄にする、加湿する、新鮮な外気を取り入れるなど、快適な暖房を得るための調整が可能であり、直接暖房より優れている。現在ではこのシステムは冷房と併用し、いわゆる空気調和システム(エアコンディショニング)として計画されることが多い。直接暖房の場合には、熱を部屋に供給するのに必要なものは小断面のパイプだけであり、設備スペースもわずかであるが、間接暖房では、断面の大きいダクトが通過するための空間が必要で、建築計画に制約を与える。
暖房設備の熱源機器としてもっとも一般的なものはボイラーである。蒸気暖房には蒸気ボイラーを用いるが、温水暖房には温水ボイラーを用いる場合と、蒸気ボイラーと熱交換器を用いて温水をつくる場合とがある。ヒートポンプを用いた熱源機器もあり、この場合は冷房と併用される。大規模なビルではボイラーも複数で、供給先も多数に分岐し、複雑な熱源システムを構成する。
熱源となるエネルギーは、かつては石炭が主流であったが、最近は大気汚染を防止するため、石油、都市ガスが用いられることが多い。しかし近年、太陽エネルギーも有力な熱源になってきている。また、都市のごみ焼却炉の排熱エネルギーを再利用することも行われている。
[吉田治典]
暖房は、なるべく少ないエネルギーで室内が快適になるように行うのがよく、建物を合理的に設計することが肝要である。
ある建物を暖房するのに要する熱エネルギーを熱負荷という。熱負荷を小さくするには、高い断熱性と気密性が必要である。また、断熱性のよい建物は室内の壁の温度も高くなり、体感上も良好になる。
暖房を開始して短時間に暖まる建物を熱容量が小さいといい、木造建築がそれに該当する。このような建物は、暖房が停止すると急速に冷えやすい。コンクリート造や、れんが造はこの逆である。熱容量の大小は予熱時間や非暖房時の室温と深い関係があるので、暖房設備の計画にあたって十分考慮すべき重要な点である。
わが国には、本州の太平洋岸のように冬季にかなりの日射の得られる地方がある。日射を十分に利用し暖房エネルギーの軽減につながる建築計画もたいせつである。
一般に寒冷な気候ほど暖房エネルギーを多く要するが、暖房するために一冬にどれほどの燃料費が必要であるかを推定する指標にデグリーデーというものがある。これは簡単にいうと、日平均気温と設定室温の差を一冬にわたって積算したものである。デグリーデーに建物の熱的性質(熱損失係数という)を掛けると一冬に必要なおよそのエネルギー量が推定でき、建物の省エネルギー性の判断ができる。
[吉田治典]
『空気調和・衛生工学会編・刊『空気調和・衛生工学便覧Ⅱ 空気調和編』(1981)』▽『日本建築学会編『設計計画パンフレット10 住宅の暖房設計』(1960・彰国社)』▽『日本建築学会編『建築設計資料集成1 環境』(1978・丸善)』▽『渡辺要編『建築計画原論3』(1965・丸善)』▽『井上宇市監修『建築設備の基本計画 計画編』(1975・丸善)』▽『新建築学大系編集委員会編『新建築学大系27 設備計画』(1982・彰国社)』
室内を暖めること。暖房しようとする個々の室の内部にストーブなどの暖房器具を置く個別暖房individual heatingと,ボイラーや熱ポンプ(ヒートポンプ)で熱せられた熱媒を多数の室に分配する中央暖房(セントラルヒーティングcentral heatingともいう)があり,後者はさらにラジエターやコンベクターなどの放熱体を置く直接暖房と,別の場所(例えば機械室)に設置した装置で暖めた空気を室内に送り込む間接暖房に分類される。
個別暖房は古くから利用され,日本では火鉢,炬燵(こたつ),囲炉裏(いろり)が,ヨーロッパ諸国ではストーブ,暖炉が多く使われてきた。床下に数条の煙道を作るオンドルや壁体内に煙を流すペチカは,床や壁の表面温度を高め,主として熱放射によって暖房を行うもの(放射暖房という)で,現在の日本ではこのような形式の暖房方法としては床や壁に埋め込んだパイプに温水を強制循環させる形が多い。これらは直接暖房の一種である。間接暖房は機械室などに送風機,熱交換コイルなどを備えた暖房機(冷房の機能を併せもつことも多い)を設置し,ここで暖められた空気を風道経由で室内に吹き出す方法である。なお,地域暖房と呼ばれるものは,建物が集合している地域に対して暖房に用いる熱媒を中央プラントから供給するシステムをいう。
→地域冷暖房
室内で直接火を燃やす個別暖房は,発生した熱全部を室内を暖めるために利用することもできるから効率はよいが,煙や一酸化炭素により室内の空気環境が悪くなり,これを防ぐためには煙突を設けるなどして煙や有害ガスを外部に逃がし,換気をよくするくふうをしなければならない。直接暖房ではこの問題はないが,それでも換気が悪いと人間の体臭やタバコの煙により空気環境の悪化は避けられない。また湿分の供給がないと相対湿度が極端に下がることがある。間接暖房では暖房機に空気中の塵埃をろ過して取り除く機能を加えたり,適当量の新鮮な外気を混合して室に供給したりすることもでき,室内の空気の分布を均一にしやすいので,他の方法に比べて質のよい暖房を行うことができるが,一般に設備費や運転費は割高になる。なお,複数の部屋を同時に暖房しようとするときは,個別暖房に比べて中央暖房のほうが火を扱う場所が限られているから,火災の危険性が小さく取扱いの煩わしさも少ない。
暖房装置で熱を発生させるエネルギー源としては,古くは薪,木炭,練炭,石炭などが多く使われたが,近年は石油(小規模な装置では灯油,大規模な装置では重油が多い),ガス(都市ガス,プロパンガスなど),電力へと変わってきており,ときには太陽熱,地熱,風力(発電機を回して電力を得る)などを利用するケースも見られるようになってきた。
冬季,人が適当と感ずる室内状態は着衣やその直前に置かれていた状態などにより異なるが,現在日本で暖房装置を運転する際に目標とする状態は,温度で20~22℃,相対湿度で40%前後とすることが多い。古くは住宅内における暖房の適温は16~18℃といわれていた時代もあったが,昭和30年代以降一般的な生活レベルの向上とともにこの値は徐々に高くなってきた。
人の温感に影響を与えるものには室内空気の温度,湿度ばかりではなく,周囲の壁の表面温度や,人がいる部分の空気の動きの速さもある。表面温度の低い部分は人体から熱放射によって熱を奪い,速い気流は皮膚の表面の水分の蒸発を促進させて人に寒いという感じを与える。壁や天井の表面温度を下げないようにするには断熱性のよい材料を使用したり,構造を二重にしたり,窓にカーテンを下げ床にじゅうたんを敷くなどいろいろなくふうがある。これらは表面温度を高めるだけではなく,その部分から室外へ逃げ去る熱量を減らすことにもなる。
人が空気の動きを感ずる原因となるものには窓や扉の隙間からもれる隙間風のほかに,ときには冷たい窓ガラスや壁の表面で冷やされた空気による下降気流がある。隙間風を防ぐには気密性の高いサッシュを使えば効果があるが,隙間風は意識的にあるいは意識せずに換気として利用していることもあり,一概にないほうがよいともいえない。下降気流の生ずるのを防ぐには前記したように表面温度を高めるくふうをするほか,下降気流の生じそうな面の直下にコンベクターやベースボードヒーターなどの暖房器具を取りつけ,暖かい上昇気流でこれを打ち消すやり方もある。
室内の相対湿度は温度ほど人の温感に影響を与えないが,湿度が低くなりすぎると,ほこりが舞いやすい,静電気が起こりやすい,壁紙や木製の家具を傷めやすいという状況になるので,適当な給湿が必要である。逆に湿度が高くなりすぎると,冷たいガラス面や壁面,ときには壁体内部に結露を生ずることがある。結露は空気がその露点温度以下に冷却されて露を結ぶ現象で,壁表面で起こるものを表面結露,壁体内部に生ずるものを内部結露という。表面結露を起こさせぬようにするには室内空気の露点温度を下げるか,結露を起こす部分の表面温度を高めることが必要であり,内部結露を防ぐには温度の低い側に断熱性のよい材料を,絶対湿度の高い側に透湿抵抗の大きい材料を配置するような壁断面とするのがよい。結露によってぬれる部分は汚れてまだら模様になったり,かびが生えたり,材料が腐ったり,断熱性能が低下したりするうえ,結露がひどくその水が流れ出すようになればその近くに置かれたものまで傷めることになるから,結露させぬように注意することが重要である。
暖房をしようとする部屋の断熱性能が悪いと,同じ装置を用い,同じ室内状態を作るにも余分な熱量を必要とし,ひいては余分なエネルギーを使うこととなるから不経済である。ある室内状態を作ったとき室から外へ単位時間に逃げていく熱量を熱損失という。目標の室状態における熱損失に見合うだけの熱量を暖房装置によって室内に送り込めば目標の室状態が得られるわけであるから,経済的な暖房を行うには暖房装置の効率を高めるとともに,建物や室の熱損失を小さくすることが必要である。1979年に公布された〈エネルギーの使用の合理化に関する法律〉(通称省エネ法)では,建築主に建物からの熱損失を小さくするような的確な措置をとることを求めており,的確な措置がとられたか否かの判断基準として,住宅にあっては地域別に熱損失係数(簡単にいえば壁面積当りの熱損失)の上限値が,事務所などの建物では年間熱負荷係数(簡単にいえば年間の熱負荷の合計値を床面積で割ったもの。これらの建物では冷房時のことも考慮しなければならず,室内から外部へ逃げていく熱のみを対象としている熱損失より広い意味をもつ熱負荷という語が使われる)の上限値が示されている。事務所などの建物ではこれに従って建物や部屋を設計した後,さらに空調エネルギー消費係数(簡単にいえば,損失皆無の装置に対するエネルギー消費量の比)が規定上限値以下になるように装置を設計することが求められる。
→空気調和 →冷房
執筆者:横山 浩一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
字通「暖」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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