改訂新版 世界大百科事典 「スイス銀行」の意味・わかりやすい解説
スイス銀行 (スイスぎんこう)
Swiss Bank Corp.
スイスの有力な商業銀行で,クレディ・スイスCrédit Suisse(1856創立,本店チューリヒ),スイス・ユニオン銀行Union Bank of Switzerland(1862創立,本店チューリヒ)とともにスイスの三大商業銀行といわれてきた。日本での登記名はスイス銀行コーポレイション。本店バーゼル。スイス銀行は1872年6行の個人銀行がシンジケートを組みバーゼル銀行を設立したのに始まる。95年に同行はチューリヒ銀行と合併,97年に現在のスイス銀行と改称した。翌98年に当時の国際金融の中心地ロンドンに事務所を開設,その後ニューヨーク(1939)をはじめ各地に支店,事務所を開設した。スイスが永世中立国でまた政治的に安定しているので外国からの資金が流入し,スイス銀行もこれらの資金をもとに業務内容を拡大した。1998年スイス・ユニオン銀行と合併,ユナイテッド・バンク・オブ・スイス(UBS)となり,世界首位の運用資産を擁するに至った。UBSの総資産は1兆7348億スイス・フラン(2004年末)。
なお,スイス銀行という表現は,〈スイスにある銀行〉という意味でも使われ,この場合,外国からの脱税のためや後ろ暗い資金の逃避のために利用されているという悪いイメージがある。これはスイスの銀行システムと法律で定められた守秘義務によって生み出されたといえる。スイスにおいては番号とサインだけで銀行口座の開設ができ,他の金融取引にも利用できる。このためスイスの銀行の口座の半数以上がスイス以外の国からのものだといわれる。また守秘義務については,ナチスとの対決がその背景にある。1930年代ユダヤ人の在外資産接収を図ったヒトラーは,スイスの銀行からその内容を聞き出そうとした。しかし国際的な信用の低下をおそれたスイスでは銀行法を改正し,顧客の秘密を漏らせば,たとえ過失であっても刑事罰の対象とすることにしたのである。
執筆者:黒田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報