秘密を守る義務。公務員のほか、医師、弁護士なども守秘義務を負う。公務員の場合、これは職務遂行中であると否とにかかわらず、職員たる身分を有する(有した)限り当然に守らなければならない身分上の義務である。したがって、公務員は勤務時間外でも、休職、停職、休暇中でも守秘義務を負う。さらに退職後も同様である。
この場合の秘密とは、一般に知られていない事実であって、それを一般に知らせることが一定の利益を損なうと認められるものである。これにつき以前は、職務上の上司が秘密に属すると認め、秘密扱いにすることを命じたものはすべて秘密とする形式秘説が有力であったが、今日では、当該事項の非公知性と秘密としての要保護性を実質的に判断して決すべきものとする実質秘説が判例通説である。
著名な判例は、外務省機密文書漏洩(ろうえい)事件(東京高等裁判所昭和51年7月20日判決)、徴税トラの巻事件(最高裁判所昭和52年12月19日判決)などで、沖縄返還交渉の過程で取り交わされたいわゆる沖縄密約に関する外務省の極秘電文や、税務署の所得標準率表(必要経費率表)は秘密にあたるとされた。
公務員が守るべき秘密には「職務上の秘密」と「職務上知り得た秘密」とがある。前者は職務上の所管に属する秘密、すなわち公の秘密である。たとえば、公売における最低入札価格、勤務評定、未発表の道路建設計画、入学試験問題、昇進試験問題など、それが公表されると公の利益を害するものをいう。後者は職務上の秘密のほかに、職務を通じて知った個人の秘密、たとえば個人の財産と生活状態、履歴、家族関係、病歴、人の出生の秘密などを含む。
公務員は「職務上知り得た秘密」については在職中と退職後とを問わず、これを漏らすことは禁じられ、これに違反すると懲戒処分と刑罰の対象となる。秘密漏洩を企て、それを唆したりした者も処罰される。しかし、憲法が検閲を禁じている(21条2項)ため、秘密の公表自体を差し止めることはできない。これに反し「職務上の秘密」については、法令による証人、鑑定人となる場合、任命権者の許可を得て発表できる(以上、国家公務員法100条、109条、111条、地方公務員法34条、60条、62条)。
公務員法のほかに、特定の公務を担当する公務員の守秘義務を定める特別の法律がある(所得税法243条、地方税法22条、児童福祉法61条、統計法41条、労働基準法105条、船員法109条、労働組合法23条、精神保健福祉法51条の6、独占禁止法39条、公証人法4条など)。
さらに刑法第134条は医師、弁護士、薬剤師等の守秘義務を定めている。
[阿部泰隆]
法令が,公務員や医師,弁護士などに対し,職務上知り得た秘密を守秘することを義務づけている場合がある(国家公務員法100条,地方公務員法34条,刑法134条等)。この義務を守秘義務という。職務の性質上,他人のプライバシーや公益と深くかかわることが多いからである。公務員の場合を例にとれば,職務上の秘密と職務上知り得た秘密がその対象とされている。守秘義務違反に対しては罰則が定められている(国家公務員法109条,地方公務員法60条,刑法134条)。問題は,秘密とは何かである。形式秘(指定秘)説と実質秘(自然秘)説に分かれる。前者は,行政庁などにおいて秘密の取扱いが指定された事項をいうのに対し,後者は,その性質上非公知性と秘匿性が実質的にあるものをいう。近時の学説・判例では後者が支配的である(たとえば1978年の最高裁決定)。公務員が,証人や鑑定人として職務上の秘密を述べる場合には,国家公務員の場合は所轄庁の長の,地方公務員の場合は任命権者の許可が必要とされている(国家公務員法100条2項,地方公務員法34条2項)。任命権者は,原則としてこの許可を与えなければならないが法律等に特別の定めがある場合に限り許可を与えないことができる(刑事訴訟法144条但書でいう〈国の重大な利益を害する場合〉などがその例である)。
弁護士,医師,弁理士等は職務上知り得た秘密について証言を拒否できる(民事訴訟法197条1項,刑事訴訟法149条)。
執筆者:佐藤 英善
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…それゆえ,職務命令が適法であるためには,(1)権限ある上司が発し,(2)それが受命者の職務に関するものであって,(3)法律上も事実上も可能なものでなければならない。 つぎに,公務員は,職務上の秘密や職務上知り得た秘密を漏らすことは許されない(守秘義務。国家公務員法100条,地方公務員法34条)。…
※「守秘義務」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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