スズラン(読み)すずらん(英語表記)lily of the valley

改訂新版 世界大百科事典 「スズラン」の意味・わかりやすい解説

スズラン (鈴蘭)
lily of the valley
Convallaria majalis L.

温帯域上部の明るい草地に自生し,また観賞用に栽培されるかれんなユリ科の多年草。和名は鐘形の花形を〈鈴〉にみたてたもの。キミカゲソウの別名もある。花茎は高さ16~25cmで,鞘(さや)状の鱗片葉の腋(わき)から1本出る。葉身をもつ葉は2枚あり,花茎の伸長とともに展開し,花後には花茎よりも高くぬき出る。花は5~6月に咲き白色,芳香がある。6枚の花被が合着して鐘状の筒をつくり,うつむいて咲く。子房は3室で少数の胚珠があり,熟して赤い漿果(しようか)となる。地下茎が長くはい,よく分枝するので,群生する性質がある。北海道,本州(西部には少ない),九州(まれ)に分布する。北海道では普通,牧草地などに雑草的に生える。ユーラシア大陸北部に広く分布し,地理的変異があるが,種としては1種である。日本で通常園芸的に栽培されるのはヨーロッパ産のドイツスズランで,花も大きく葉幅も広く,観賞用として好まれる。クリスマスや正月のころ開花させるには,根株を晩秋に冷蔵しておき,温室で30℃に加温する。ヨーロッパでは五月祭をこの花束で祝うため,May lilyの英名もある。全草にコンバラマリンconvallamarin,コンバラリンconvallarin,コンバラトキシンconvallatoxinという3種類の配糖体を含み有毒であるが,またこれらの成分は薬用にも利用される。とくにコンバラマリンはジギタリスと似た作用があり,精製して強心剤に用いる。漢方では全草を煎じて強心剤,利尿剤とする。ヨーロッパでは花を香水の原料としても利用する。

 ドイツスズランを栽培するには,晩秋,走茎の先端にできる肥厚した芽(ピップpip)に,地下茎を10~15cmつけて切り分けたものを,鉢や花壇に植えつける。例年,花をよく咲かせるには受光,排水のよいことが条件。一部の山草家によって,花色が淡桃色のモモイロスズランもつくられている。
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スズランは聖母マリアの花とされ,清らかさの象徴である。アイルランドでは妖精が好んで遊び場にするといい,〈妖精のはしごfairy ladders〉とも呼ぶ。16世紀ころからヨーロッパ各地で盛んに栽培されたが,これは卒中,リウマチ,痛風などに効くという〈黄金水aqua aurea〉の材料となったためである。フランス伝説では,559年に聖人レオナールLéonard(祝日11月6日,囚人の守護聖人)が森からドラゴンを追い払ったとき流れた血の跡から生じた花という。聖霊降臨祭に供えられるのもこの花で,〈幸福の再来,巧まざる優しさ〉〈純潔〉〈甘美〉などの花言葉がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スズラン」の意味・わかりやすい解説

スズラン
すずらん / 鈴蘭
lily of the valley
[学] Convallaria majalis L. var. manshurica Kom
Convallaria keiskei Miq.

ユリ科(APG分類:キジカクシ科)の多年草。キミカゲソウ(君影草)ともいう。葉は2、3枚根生し、長さ10~18センチメートル、幅3~7センチメートル。初夏、高さ20~35センチメートルの花茎を出し、径約1センチメートルの鐘形で純白色の花を5~10個下向きに開く。花冠は先が六裂して反り返り、芳香がある。果実は球状となり、赤く熟す。高原に生え、中部地方以北の本州、北海道、およびアジア北部に分布する。切り花、鉢植え、庭植えにするが、現在よく栽培されているのは、ほとんどドイツスズランC. majalis L.である。これは前種に比べて、葉は丸みを帯び、光沢があり、花は大輪で、芳香が強い。

[魚躬詔一 2019年3月20日]

栽培

露地植えの場合、夏の西日が当たらない半日陰を選び、用土は堆肥(たいひ)、油かす、化成肥料をよく混ぜた肥料分の多いものにする。10月中旬、小指の先大に肥大した、花芽のついた地下茎を選び、約10センチメートル間隔に植え、覆土は芽先2センチメートル程度とする。鉢植えは10月中旬、5号平鉢に5~6芽植えとし、冬は鉢ごと土中に埋め越冬させる。フレームや温室を利用する場合は、翌年1月下旬以降、土中から掘り出し、フレームか温室で育てると1か月ほどで花が開く。繁殖株分けによる。

[魚躬詔一 2019年3月20日]

文化史

英名のリリー・オブ・ザ・バリーlily of the valleyは、『旧訳聖書』のソロモンの雅歌に載る谷のユリshoshannahから由来したが、本来パレスチナ地方にスズランはなく、これはアネモネの一種Anemone coronaria L.か、マドンナリリーLilium candidum L.、あるいはカミツレの類Anthemis palaestina Reut.などと考えられている。スズランのもっとも古い歴史は、聖レオナール(英名レオナード)がフランスのリモージュ近くの谷(一説ではベルギーのルーバンの森、イギリスにも別説あり)で、ドラゴンと闘い、流した血から生じたという伝説である。ドイツスズランはヨーロッパの中北部に広く分布し、古くから各国の伝説、民話に取り入れられた春の歳時植物である。フランスでは5月1日がスズランの日で、各地でスズラン祭りが開かれ、その日スズランの花束が贈られると、幸福が訪れるといわれてきた。ヨーロッパでは薬草としても使われ、11世紀にプラトニクス・アプレウスが、手の傷や腫(は)れ物に効くと書き留めている。花をはじめ全草にコンバラトキシンなどの強心性配糖体を含み有毒だが、微量は強心剤に使われる。

 日本では江戸時代の園芸書には顔をみせず、松平秀雲(しゅううん)(君山(くんざん))が『本草正譌(ほんぞうせいか)』(1776)に君懸(きみかけ)草、八千代草を取り上げたのが古く、飯沼慾斎(いいぬまよくさい)の『草木図説』(1856)には正確な図が載る。一般に知られるようになったのは明治の終わりごろからである。北海道にはとくに多くみられるが、アイヌの人々はセタプクサ(イヌのギョウジャニンニク)とか、チロンヌプキナ(キツネのギョウジャニンニク)とよび、利用はしなかった。

[湯浅浩史 2019年3月20日]


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百科事典マイペディア 「スズラン」の意味・わかりやすい解説

スズラン

(1)北海道,本州,九州(まれ)の高原の草原にはえるユリ科の多年草。キミカゲソウ(君影草)とも。葉は2枚,相接して細長い根茎につき,長楕円形で長さ15cm内外となり,粉緑色を帯びる。春,長さ20〜35cmの花茎を出し上半に穂状に十数個の花をつける。花は壺形でかおりが高く,白色で長さ6〜8mm,下垂して咲く。おしべは6本,黄色の葯(やく)がある。液果は球形で赤熟。なお,近縁のヨーロッパ産のドイツスズランは花が大きく,葉の幅が広く,栽培しやすくて切花,鉢植にする。(2)ラン科のカキランの別名。

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世界大百科事典(旧版)内のスズランの言及

【カキラン(柿蘭)】より

…和名はかば色の花の色に由来する。スズランの別名もある。植物体は全体平滑。…

【有毒植物】より

…しかし用量安全域がせまく,副作用として食欲不振,悪心,嘔吐をさそい,多量に使用すれば心臓停止による死を招く。キンポウゲ科のフクジュソウ,クリスマスローズ,キョウチクトウ科のキョウチクトウ,ストロファンツス,ユリ科のオモト,カイソウ,スズランなどにも同様の成分が存在する。ストロファンツスはアフリカの原住民によって,矢毒として利用されていた。…

※「スズラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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