17世紀スペイン絵画の巨匠の一人。ポルトガルに隣接するバダホス県の小村フエンテ・デ・カントスに生まれる。父はバスク人。16歳から3年間,セビリャのP.D.deビリャヌエバの工房で修業,その間ベラスケスと交友を結ぶ。バダホス県リェレーナに帰って制作したが,名声をえて1629年セビリャ市の画家として招かれ,同市を中心に南部アンダルシア地方で活躍,数多くの修道院や教会のために制作した。最盛期は30年代で,34年にはマドリードに招かれ,ブエン・レティーロ宮のために《ヘラクレスの功業》シリーズなどを描き,〈国王の画家〉の称号をえた。45年以後,若いムリーリョに名声を奪われる一方,2番目の妻の死と3度目の結婚,画家で協力者の息子ホアンをペストで失うなど家庭的な不幸も重なり,58年マドリードに出て再起を図ったが,貧困のうちに同市で没した。若くして,虚飾のない自然主義,明暗描法,動きのない地味で安定した構図によってモニュメンタルな画風を確立した。その黄金色に輝く光は,J.deリベラや初期のベラスケスよりも明澄で,神秘的な詩情を秘めながら画面全体を潤す。作品の主要ジャンルは宗教画で,その中でも修道士の画家として優れた才能を発揮し,セビリャ市のドミニコ会所属サン・パブロ修道院(1626),メルセス会修道院(1629),カルトゥジア会修道院(1631),ヘレス・デ・ラ・フロンテラのカルトゥジア会修道院(1633),グアダルーペのヒエロニムス会修道院(1638-39)など数多くの修道院のためのシリーズを描き,スペイン・バロック絵画に特異なジャンルを築いた。それらは,各修道会の歴史を築いた修道士や聖人たちの肖像,彼らの神秘体験や苦行の姿など,静謐(せいひつ)な中に宗教的な感動のみなぎる作品である。スルバランの明暗の対比によるボリューム,緻密な色面による物の質(特に布など)の表現は正確を極め,静物画にも傑作を残した。
執筆者:神吉 敬三
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17世紀スペイン絵画の巨匠。バダホス県のフエンテ・デ・カントスに生まれ、マドリードで没。1629年にセビーリャ市の画家に任命され、生涯のほとんどをこのアンダルシア地方の州都を中心に活躍、主として諸修道会のために宗教画、とくに修道会の歴史、修道士や聖人の生涯、苦行者や神秘家などを数多く描いた。そのじみな構図、虚飾のないリアリズム、明確な輪郭と緻密(ちみつ)な面によるボリューム表現、明るい色調と画面全体にみなぎる黄金色を特徴とした明暗法による静謐(せいひつ)な宗教画は、当時のスペインを支配していた対抗宗教改革運動の精神、とくにその神秘主義と克己の気風をみごとに反映している。わずかながら、独創的な「ボデゴーン(静物画)」や肖像画も残した。代表作に『聖トマス・アクィナスの礼讃(らいさん)』(1631)、グアダルーペ修道院シリーズ(1638~1639)、ヘレスのカルトゥジオ会修道院シリーズ(同上)などがある。
[神吉敬三]
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…それ以前は,諸キリスト教王国やイスラム王国の首都がその時々の文化の中心をなしていた。17世紀のベラスケス,スルバラン,ムリーリョといった巨匠たちを生んだのも,マドリードではなく,イスラム支配時代から重要な都市として繁栄し,後に新大陸との交易を一手に掌握したセビリャであったのである。
[古さゆえの新しさ]
イスラムと対立・併存した8世紀間,スペインのキリスト教はファナティックで好戦的なものに変質した。…
…また北方のトリノでは17世紀末から18世紀にかけて,ユバラ,グアリーニなどの大建築家が輩出し,装飾画家,スタッコ・デザイナーも空前の盛況を呈した。
[スペイン]
スペインは,その植民地であったナポリを通じて直接にカラバッジョ主義をうけ入れ,J.deリベラ,スルバラン,ベラスケスなどはその影響のもとに,エル・グレコを代表とするマニエリスムを克服した。このうち,フェリペ4世の宮廷画家であったベラスケスは,ルーベンスとベネチア派の強い影響のもとに円熟した絵画様式を確立し,バロックにおける最大の画家の一人となった。…
※「スルバラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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