タタ財閥(読み)たたざいばつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タタ財閥」の意味・わかりやすい解説

タタ財閥
たたざいばつ

インドの代表的な財閥。グループ企業は90以上、従業員は25万人。創始者のジャムシェトジー・ヌッセルワンジー・タタJamsetji Nusserwanji Tata(1839―1904)は、「現代インドの偉大な創設者の一人」とたたえられた企業家。タタ一族は、イスラム迫害を逃れてイランから移住したゾロアスター教徒子孫といわれる。

 J・N・タタは中国貿易に従事したのち、1868年以降革新的な綿工業経営を展開した。また、人種差別的理由によりホテルに入ることを拒否されたことから、当時東洋一のホテルを建設したり(1898)、イギリスのP&O汽船に対抗するため日本郵船と提携してボンベイ航路を開設したことは有名。さらには、インド工業の自立を目ざして、鉄鋼会社や人材育成のための大学創立の準備を進めた。それらの事業は、息子らによって1907年タタ鉄鋼、1912年インド科学大学として設立された。南インドのバンガロール(現、ベンガルール)が、今日インドの「シリコンバレー」とよばれるのはこの大学に負うところが大きい。この後継者たちは、マハトマ・ガンディーの信託理論の強い影響下に、世界類例をみない社会貢献のシステムをつくったことで注目される。財閥本社の株式の大半をチャリティー財団が所有する体制をつくり、巨額の資金が奨学金、医療、後進地域開発などに振り向けられるようにした。4代目として半世紀近く財閥を率いたのは、創始者のいとことフランス人との間に生まれたジャハンギール・ラタンジ・ダーダーバーイ・タタJehngir Ratanji Dadabhoy Tata(1904―1993)で、タタ航空(現、エア・インディア)を創設するなど事業をさらに拡大した。

 インドの経済自由化がスタートした1991年に5代目当主に就任したラタン・ナバル・タタRatan Naval Tata(1937―2024)は、多角化した事業の選択と集中を進めつつグローバル化戦略を展開した。タタ自動車では、約20万円の超低価格車を生産する一方、高級ブランドのジャガーランドローバーを買収した。タタ・ハウジングは、80万円の住宅を提供している。タタ鉄鋼は、新日本製鉄(現、日本製鉄)とも提携する一方、コーラス(イギリス、オランダ)ほかを買収し、世界の有数の企業となった。ほかにタタ・ティー、携帯電話のタタ・テレサービシズなどが知られる。

[三上敦史]

『ルッシィ・M・ララ著、黒沢一晃・小沢俊磨訳『富を創り、富を生かす――インド・タタ財閥の発展』(1991・サイマル出版会)』『三上敦史著『インド財閥経営史研究』(1993・同文舘出版)』『財団法人アジアクラブ編『インドの財閥と有力企業グループ』(1997・国際経済交流財団)』『ジェトロ海外調査部編『インド企業のグローバル戦略』(2008・ジェトロ)』『小島眞著『タタ財閥』(2008・東洋経済新報社)』『絵所秀紀著『離陸したインド経済』(2008・ミネルヴァ書房)』『日本経済新聞社編『インド――目覚めた経済大国』(日経ビジネス人文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タタ財閥」の意味・わかりやすい解説

タタ財閥
タタざいばつ
Tata Group

インドの財閥。本拠はムンバイビルラー財閥と並びインドを代表する財閥で,持株会社タタ・サンズとタタ・インダストリーズが傘下に約 100の子会社を置く。1868年ジャムシェトジー・N.タタが貿易会社として設立。1870年代に近代的綿紡績工場を建設,20世紀初めにはタージ・マハル・ホテルを建設し,製鉄,電気,教育,大衆消費財,航空機など多角的に展開した。さらに 20世紀半ば以降は化学,自動車,化粧品,ソフトウェアなどにも進出。1991年にラタン・タタが会長となり急速に事業を拡大,グローバル化を推進した。2000年にはロンドンに本社を置くテトリー・ティー,2004年には大韓民国(韓国)の大宇自動車(→大宇)のトラック部門を,2007年にはタタ・スチールがイギリス・オランダ系の鉄鋼大手コーラス・グループを買収。2008年,タタ・モーターズは廉価の小型大衆車「ナノ」を発表し注目を集めた。さらに高級車市場にも触手を伸ばし,同 2008年フォード・モーターからジャガーとランドローバーのブランドを買収。2012年にラタン・タタは引退し,サイラス・ミストリーが後継の会長となった。

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