改訂新版 世界大百科事典 「デブス」の意味・わかりやすい解説
デブス
Eugene Victor Debs
生没年:1855-1926
アメリカの労働・社会主義運動の指導者。アルザス移民の息子としてインディアナ州テレ・ホートに生まれ,若くして鉄道に働きつつ,組合活動家として台頭。1893年産別のアメリカ鉄道組合(ARU)を組織。翌年ARUを率いて,プルマン鉄道会社に起こったストライキを支援。逮捕,投獄されたが,これを機に労働運動指導者としてのデブスの人気は一挙に全国へと広まった。数ヵ月の獄中生活の間に,E.ベラミーからマルクスに至る社会主義思潮を学び,その後97年にはビクター・バーガーと協力しアメリカ社会民主党を結成。1900年の大統領選挙には同党候補として出馬。翌01年バーガーおよび社会労働党を脱退したモーリス・ヒルキットらとともにアメリカ社会党を創設,以後4回同党大統領候補。その間05年には,サンディカリスト的急進組織のIWW(世界産業労働者組合)の結成に参画するが,その暴力的戦術に反対して08年脱退。一方,デブス指導下で社会党は着実に成長を遂げ,12年大統領選挙では彼は90万票余(得票率6%)を得た。第1次大戦に際し,党内反戦派の立場を貫き,18年防諜法違反のかどで再び投獄され,20年大統領選には獄中から立った。ロシア革命に対しては常に賛辞を惜しまなかったが,アメリカ共産党には同調せず,戦後も社会党の再建に努めた。今日に至るまで,彼を急進的ポピュリスト,社会主義者のいずれと見るかは議論なしとしないが,アメリカ史上,最も人気のあった民衆指導者の一人であることは否定しえない。
執筆者:古矢 旬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報