翻訳|trampoline
鋼鉄製の方形や円形の枠(フレーム)に伸縮性のあるじょうぶな布(ベッド)を張り、ゴムケーブルまたはスプリング(ばね)で固定した運動器具。また、それを用いて行う運動・競技。公式競技用器具は後述のように規格が定められている。
語源はイタリア語のtorampolino(竹馬)、スペイン語のtrampolin(跳躍板)である。1860年ころ、フランスのレオタールJules Léotard(1838―1870)が、サーカスの空中ブランコの危険防止用「安全ネット」にヒントを得て、安全ネットを四方に強く引っ張り、その上で跳躍や回転運動を行ったのが最初であるといわれている。1930年代にヨーロッパからアメリカに伝わり、ジョージ・ニッセンGeorge P. Nissen(1914―2010)が改良を重ねてバウンシングbouncingベッドを考案し、「跳ね返り」が可能な安全な器械を完成させ、これを「トランポリン」と名づけた。登録商標名であったが、現在は解除されている(日本では「トランポリン」を製造販売しているセノー株式会社が商標登録している)。
[三輪康廣・後藤洋一 2020年2月17日]
器械には折畳み式、分解式(組立て式)、固定式(床や地面にはめ込むもの)があり、大きさも大(公式競技用=ラージ)、中(準公式競技用)、小(普及用)の3種がある。
運動の特徴として、(1)ばねの力を有効に引き出せば、平地での跳躍の3~6倍の高さが連続的に得られる、(2)緩衝力が大きく直立位のジャンプを主体とするが、背・腹・膝(ひざ)・長座姿勢でも着床し跳躍ができる、(3)運動の種類も多様(宙返りやひねりを加える)で、年齢・性別を問わず各自の能力に応じて楽しくできる、(4)体操競技やダイビングの補助運動や美容体操、レクリエーションとしても広く行われている、などがあげられる。またトランポリンは、体操競技、飛び込み(ダイビング)、フリースタイルスキーのモーグルやエアリアル、ダブルダッチ(縄跳び)など、各種の競技スポーツ選手の宙返り等の空中感覚づくりにも有効であることから、補助的なトレーニングとして積極的に利用されている。
[三輪康廣・後藤洋一 2020年2月17日]
トランポリン競技は跳躍運動を主体とした採点競技で、以下の3部門に分かれている。トランポリンを使用し跳躍運動や宙返り技を連続して演技するトランポリン競技(1名で行う個人競技と2名で行うシンクロナイズド競技がある)、10メートルの助走路と約25メートルの弾性のあるマット(タンブリングトラック)上で回転技や宙返り技を連続して演技するタンブリング競技、幅92センチメートル、長さ285センチメートルの小型のトランポリンを用いて助走から2回の宙返り技を連続して演技するダブルミニトランポリン競技である。また、レクリエーションの一環として日本で開発されたシャトル競技(2台のトランポリンを使い、2名の競技者が技を交互に連続して出し合って競う競技)がある。体操競技、新体操と同様、国際体操連盟(FIG:Fédération Internationale de Gymnastique)の管轄下にある。
公式競技用のトランポリンは、床面からベッドまでの高さ115.5センチメートル±0.5センチメートル、フレーム内寸は長辺方向505センチメートル±6センチメートル、短辺方向291センチメートル±5センチメートル。そのほか、器械の規格についてはフレーム強度(たわみ量)やベッドのぶれなどの許容量、ベッドの寸法、ジャンピングゾーン(赤ライン)の寸法などの厳しい規格が定められている。
オリンピック大会では、個人競技のみが正式採用されている。個人競技の得点は、演技の難度点を示すD得点(D:difficulty)、演技の正確さや美しさを示すE得点(E:execution)、トランポリンのベッドの中心から水平方向への移動による減点を示すH得点(H:horizontal displacement)、演技の跳躍時間を示すT得点(T:time of flight)の4項目の合計によって決定される。D得点は行われた種目ごとに姿勢、宙返りやひねりの回数によって得点が決定されその合計で算出される。演技が途中で中断した場合、中断する前までの種目の合計となる。E得点は種目ごとのE審判員の減点の中間値(2名)の合計を最大得点(20点満点)から差し引いて算出される。シンクロナイズド競技ではさらにペアの同時性を示すS得点(S:synchronization)が加味される。H得点、T得点、S得点はそれぞれ電子機器によって計測され得点化される。審判団は、主任審判員(CJP:chair of judges' panel)1名、D審判員2名、E審判員6名の合計9名で構成される。
日本では、1959年(昭和34)に日本体操協会がニッセン夫妻と当時の世界第一人者フランク・ラデュFrank Ladue選手を招待し、全国各地で演技会や講習会を開催して積極的に普及活動を行った。国際競技会へは、日本は1972年の第7回世界選手権大会から参加している。2000年(平成12)の第27回オリンピック・シドニー大会から体操競技のトランポリン種目(男・女個人)として正式採用され、日本からは中田大輔(なかただいすけ)(1974― )と古章子(ふるあきこ)(1973― )が出場し、古は7位に入賞した。2008年の第29回オリンピック・北京大会では男子で外村哲也(1984― )が4位に入賞。2012年のロンドン大会では、男子で伊藤正樹(まさき)(1988― )が4位、上山容弘(やすひろ)(1984― )が5位に入賞。2016年のリオ・デ・ジャネイロ大会では、男子では棟朝銀河(むねともぎんが)(1994― )が4位、伊藤正樹が6位に入賞。2020年(令和2)の東京大会(2021年開催)では、男子で岸大貴(きしだいき)(1994― )が7位に入賞、女子では宇山芽紅(うやまめぐ)(1996― )が5位に入賞した。
世界選手権大会においては、2018年第33回大会の女子シンクロナイズド競技で宇山芽紅と森ひかる(1999― )のペアが金メダルを獲得した。2019年第34回大会は、翌年に開催されるオリンピック・東京大会(一年延期され2021年に開催)の会場となる有明(ありあけ)体操競技場(江東区)で開催された。女子個人競技で森ひかるが金メダル、土井畑知里(どいはたちさと)(1994― )が銀メダル、女子シンクロナイズド競技で岸彩乃(きしあやの)(1992― )と高木裕美(ゆみ)(1999― )のペアが金メダル、3名の選手の得点を合計して競う団体競技で女子が金メダルを獲得。また男子シンクロナイズド競技で田崎勝史(たさきかつふみ)(1991― )と棟朝銀河のペアが金メダルを獲得した。
1972年に社団法人日本トランポリン協会が設立されて国際トランポリン連盟に加盟したが、国際トランポリン連盟がFIGと合併したのに伴い、財団法人日本体操協会に加盟(1999)。2012年には同協会に吸収され、協会内の一部門となった(日本体操協会は2013年に公益財団法人に移行)。
[三輪康廣・後藤洋一 2022年2月18日]
『日本体操協会編・刊『採点規則 トランポリン』2017年版(2017)』
ゴムと布を特殊加工した弾力性のあるシートを鉄骨で支え,高い跳躍や宙返りをするために考案された跳躍器具の商品名。移動式組立てトランポリンの考案者はアメリカのニッセンGeorge Nissenで,最初の試作は1936年。空中ブランコの安全ネットにヒントを得て考案した。第2次世界大戦中にアメリカ軍の訓練用器具として採用され,運動の内容や方法が研究された。競技としては,48年〈リバウンド・タンブリングrebound tumbling〉の名で全米大学体操競技選手権大会に登場したのが最初である。57年ヨーロッパに,59年には日本に伝わった。62年〈トランポリン競技〉という呼称が正式に認められ,64年には第1回世界選手権大会をイギリスで開催,同年,国際トランポリン連盟Federation International Trampoline(FIT)が結成された(99年に国際体操連盟に吸収合併)。オリンピックでは,2000年のシドニー大会から正式種目に採用された。
おもな競技種目には,個人競技と2人のチームが2台のトランポリン上で同時に同じ演技を行うシンクロナイズド競技がある。いずれも予選で規定演技と自由演技を行い,合計得点の上位者が自由演技による決勝を争う。審判は,演技の華麗度を審査する演技審判員と,技の難易度を審査する難度審判員で構成される。
トランポリンのルーツには諸説あるが,代表的なものは以下の二つである。一つは,スペインのペレレpeleleと呼ばれる,わら人形を毛布ではね上げる遊びである。当初は春を迎える異教徒の風習であったが,中世に入ってキリスト教徒のなかに同化し,カーニバルの行事として全ヨーロッパに伝播した。ここではわら人形の代りに犬を放り上げた。さらに,犬の代りに人間を放り上げる〈ケット上げ〉といういたずら遊びが,セルバンテスの《ドン・キホーテ》やシェークスピアの《ヘンリー4世》のなかに描かれている。もう一つはアラスカ・エスキモーのナルカトクnalukatokuという競技で,セイウチの獣皮や毛布で作った正式のシートを用い,チームメートにトスしてもらいながら,ジャンプの高さと回数を競い合う。これらの伝承遊戯や競技のイメージがトランポリンに継承されたものと思われる。
執筆者:稲垣 正浩
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(佐野淳 筑波大学助教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…健康なからだの育成,むだのない経済的な動きの修得,スポーツや作業に適する基礎的な運動能力の養成を目的とする運動法。
【沿革】
英語のジムナスティックスgymnasticsの語源はギリシア語のギュムナスティケgymnastikēにさかのぼる。古代ギリシア人が裸体で競技をする習慣のあったところから,〈裸体の〉を意味するギュムノスgymnosから派生したことばで,前5世紀ころから使われている。したがって,古代ギリシア人にとって体操とは〈裸体で競技をすること〉を意味したのであるが,さらに積極的に〈睡眠,栄養,マッサージなどと関連して運動効果を科学的に検討し,運動を体系づける分野〉を意味するようになった。…
…この体操競技を成立させる諸ルールは,ほぼ4年に一度改訂されている。このほか,体操競技に似た競技種目として新体操,トランポリン,スポーツ・アクロ体操,エアロビクスなどがある。男子ゆかでは12m四方の床面上で主にアクロバット系(宙返りや回転とびなど)と体操系(柔軟性やバランスを表現した運動など)の運動が組み合わされて演技される。…
※「トランポリン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新