翻訳|elasticity
経済理論において,二つの変数が関数関係でつながっている場合,その2変数のパーセンテージ変化の比を用いて両変数の関係を記述することがある。この比を一般に弾力性と呼ぶ。いろいろな種類の弾力性が定義されうるが,この概念の考案者の一人であるA.マーシャルは,需要曲線や供給曲線の価格弾力性という形で初めて定義した。需要の価格弾力性は,人々が需要したいと望む財の数量(q)はその価格水準(p)に依存しているが,この財の価格の微少変化割合(⊿p/p)がどの程度の需要量の変化割合(⊿q/q)をもたらすか,という点に注目する。この場合,弾力性は,と表現される。負の記号をつけるのは,需要曲線が通常右下がりになるので,弾力性の数値を正とするためである。
この弾力性概念の重要性は,次のような例からもわかる。天候がよければ農産物の収穫量も多くなり,農家の利潤は増加すると一般に考えられがちだが,かえって総収入と利潤が減少するという現象が起こる場合がある。これは,天候がよく農産物の収穫が多いと農産物の供給曲線は右側にシフトして販売量は増えるが,価格がそれ以上の割合で下落するため(すなわち弾力性が1より小さいため)総収入が全体として減少してしまうからである。世界中どこでも,農民が作付制限や農産物貯蔵計画の促進などによって,弾力性を上昇させたり,供給量を減少させたりしようとするのは,農産物の需要曲線の弾力性が1より小さいという理由からである。価格弾力性が数量の比例的変化(⊿q/q)と価格の比例的変化(⊿p/p)の比と定義されていることからもわかるように,弾力性は数量(トンやポンド)や価格(ドルや円)などの測定単位から独立な無名数になっている。また,弾力性は曲線上の各点で定義されており,同一曲線上にあっても,異なった点であれば弾力性も異なってくる。もっとも統計的に弾力性を計測する際には,弾力性一定の曲線を想定してしまう場合が多い。
弾力性を知ることによって,たとえば価格変化が総支出(売手からみれば総収入)に与える効果を要約的に知ることができる。非弾力的な需要に直面している売手が,需要が弾力的になる点まで価格をつり上げたり,需要が弾力的であれば価格を低下させて総収入を増加させたりすることも可能になる。
そのほか重要な弾力性として,需要の所得弾力性,需要の交差(価格)弾力性,輸入の所得弾力性,輸出入の為替レート弾力性などがあり,2変数の比例的変化の比を〈弾力性〉と名づけることが一般的になっている。
執筆者:猪木 武徳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある経済変数xが1%変化したとき、それに反応して他の変数yが何%変化するかを測る尺度をいう。xがΔxだけ変化し、yがΔyだけ変化するときには、yのxについての弾力性は、
で示される。この弾力性の値が1より大きいと、xの1%の変化はそれ以上のyの変化をもたらし、yは弾力的であるといわれる。弾力性の値が一であると、xの1%の変化はyの1%の変化をもたらし、yは中立的であるという。弾力性の値が一より小さいと、yは非弾力的であるといい、xの1%の変化はそれ以下のyの変化しかもたらさない。
弾力性にはいろいろあるが、代表的なものとして需要の弾力性があげられる。通常の場合には、ある財の需要量は、その財の価格が上昇すると減少し、所得が増えると増加する。価格が1%増えると需要量が何%減少するかを測るのが、需要の「価格弾力性」であり、所得が1%増えるとどれくらい需要量が増えるかを示すのが、需要の「所得弾力性」である。一般に、必需品の価格弾力性と所得弾力性は一より低い値となる。すなわち、必需品の場合には、価格が変化しても、また人々の所得が減ったり増えたりしても、需要量はさして変化しない。これに対して奢侈(しゃし)品の場合には、価格弾力性も所得弾力性も一より大きい値となる。すなわち、所得の伸びが大きいほど、またその価格の下げ幅が大きいほど、それへの需要の伸びが大きくなるのである。
そのほか、予想の弾力性、代替の弾力性、支出弾力性など、多くの弾力性の概念が利用されている。経済変数は相互に関連しあって変化するのが一般的であり、その関連の度合いを示す弾力性は、経済分析において重要な役割を果たしている。
[内島敏之]
『篠原三代平著『ミクロ経済学』(1979・筑摩書房)』
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新