日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナヒチェバン」の意味・わかりやすい解説
ナヒチェバン
なひちぇばん
Нахичеван/Nahichevan
アジア南西部、アゼルバイジャン共和国に属する自治共和国。面積5500平方キロメートル、人口33万3200(1997推計)。首都はナヒチェバン(人口6万4300、2002)。
[渡辺一夫・上野俊彦]
沿革
ナヒチェバンは、ロシア・イラン戦争後、1828年トルコマンチャーイ条約によりイラン領からロシア領に編入された。1920年7月ナヒチェバン・ソビエト共和国が設立され、23年2月アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国に属する自治辺区となり、24年2月ナヒチェバン自治ソビエト社会主義共和国に昇格。ソ連崩壊(1991年12月)前年の90年11月ナヒチェバン自治共和国Нахичеванская Автономная Республика/Nahichevanskaya Avtonomnaya Respublikaとなった。
[渡辺一夫・上野俊彦]
国土
国土はザカフカス地方南部に位置し、アルメニアをはさんでアゼルバイジャン本国の飛び地となっている。国土の南縁はアラクス川で、イランとの国境となっている。南部は低地、東部はザンゲズール山脈の南西側斜面となっている。平均気温は、平地で1月零下3℃、7月28℃、山地で1月零下14℃、7月25℃(山脈頂上部では5℃以下)。年降水量は平地で200ミリメートル、山地で600ミリメートル。
[渡辺一夫・上野俊彦]
住民
1989年国勢調査による民族構成は、アゼルバイジャン人(28万2000、95.9%)がほとんどを占め、ほかにロシア人、アルメニア人などである。なお、前述したようにナヒチェバンはアゼルバイジャンの飛び地になっているが、アゼルバイジャン人居住地域としては、イラン領東アゼルバイジャン州と西アゼルバイジャン州に接しており、飛び地になっているわけではない。実際、1989年末~90年初めに、ナヒチェバンとイランとの国境地帯で、国境開放を掲げるナヒチェバン人民戦線が国境警備隊と衝突し、国境警備施設を破壊するという事件が起こっている。このことは、この地域にイラン、アゼルバイジャン国境を越えた南北アゼルバイジャン統一の欲求が潜在的に存在していることを意味している。
[渡辺一夫・上野俊彦]
産業
おもな産業は、鉱工業では、多金属鉱、石炭の採掘、軽工業(生糸生産、毛・綿織物、縫製)、食品加工(食肉・乳製品、たばこ、果実・野菜缶詰、ミネラル・ウォーターなど)、機械、金属加工、木材加工、建築資材生産。農業では、タバコ、ブドウ、果樹栽培、生糸生産などが行われている。首都ナヒチェバンには、食品加工、軽工業、電気機器、電子機器、家具、建築資材生産、岩塩採掘などの鉱工業がある。また、アラクス川本・支流には高い落差を利用した水路式やダム式の発電所がある。鉱泉のある保養地も多く、とくに首都の北部渓谷にあるバダムリБадамлы/Badamlïは有名。主要鉄道はトビリシ―(アラクス川河谷経由)―バクー間の幹線1本が国内を通過している。
[渡辺一夫・上野俊彦]