日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナミダテンジクダイ」の意味・わかりやすい解説
ナミダテンジクダイ
なみだてんじくだい / 涙天竺鯛
Samoan cardinalfish
[学] Nectamia savayensis
硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科マンジュウイシモチ族に属する海水魚。日本では福岡県津屋崎(つやざき)、南西諸島の海域から知られ、世界では台湾、グレート・バリア・リーフ、ツアモツ諸島、紅海、東アフリカなど太平洋とインド洋に広く分布する。体は楕円(だえん)形で、側扁(そくへん)する。体高は高く、体長は体高の2.2～2.5倍。頭長は体高よりすこし短い。目は著しく大きくて、吻長(ふんちょう)の2倍以上。上顎(じょうがく)の後端は目の中央部下を越える。上主上顎骨はない。上下両顎、鋤骨(じょこつ)（頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨）、口蓋骨に絨毛(じゅうもう)状の歯がある。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の隆起線は円滑で、縁辺が鋸歯(きょし)状。鰓耙(さいは)は上枝に7本、下枝に20本。頭部と体は櫛鱗(しつりん)で覆われる。側線はよく発達し、尾びれ基底に達する。側線鱗の孔(あな)は1個で、側線有孔鱗数は24枚。背びれは胸びれ基底上方から始まり、2基で、第1背びれは7棘(きょく)、第2背びれは1棘9軟条。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方から始まり、2棘8軟条からなる。臀びれの基底長は第2背びれ基底長とほとんど同長。胸びれは13軟条。腹びれは胸びれ起部下付近から始まる。尾びれの後縁は浅い二叉(にさ)形。体は淡赤褐色で、背側面に3帯の暗色鞍状斑(あんじょうはん)がある。第1帯は第1背びれの起部付近から、第2帯は第2背びれから始まり、第3帯は尾柄(びへい)に位置する。側線の下方の腹側面に6～10本の細い暗褐色横帯がある。頬(ほお)には目の下縁から上顎の後方へ伸びる黒色のくさび形の斜帯がある。第1背びれの先端部は黒い。胃と腸は暗色。水深5～15メートルのサンゴ礁の斜面のサンゴ枝の間に隠れていることが多く、夜間に活動する。おもに小形甲殻類や多毛類を食べる。最大体長は10センチメートルほどになる。
本種はナミダテンジクダイ属に属する。本属には本種以外に日本からバンダイシモチN. bandanensisとホソスジナミダテンジクダイN. fuscaの2種が知られていて、互いによく似るが、後の2種は体側に3～6本の暗色横帯をもつことで本種と区別できる。
ナミダテンジクダイ属は2014年（平成26）のDNAの分析結果から、魚類学者の馬渕浩司(まぶちこうじ)（1971― ）とフレーザーThomas H. Fraserによって創設されたマンジュウイシモチ族に含められた。本族は側線孔が1個であること、腹部に発光器をもたないこと、尾びれの上下葉のもっとも外側にある鰭条(きじょう)は分節しない棘状であることなどの形態的な特徴をもつ。
［尼岡邦夫 2022年11月17日］