ハービッツ(読み)はーびっつ(英語表記)Leonid Hurwicz

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハービッツ」の意味・わかりやすい解説

ハービッツ
はーびっつ
Leonid Hurwicz
(1917―2008)

アメリカの経済学者。モスクワ生まれ。1938年にポーランドワルシャワ大学で法学修士を取得、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスでN・カルドアに師事して経済学を学んだのち、アメリカへ移住した。アイオワ州立大学を経てイリノイ大学ミネソタ大学教授を歴任した。市場まかせではうまくいかない資源の効率的配分を達成するため、社会に点在する情報をうまく用いて制度設計やルールを導入し、効率的な市場をつくるという新たな「メカニズム・デザイン(制度設計)理論mechanism design theory」を創始者として提唱した。この基礎を確立した功績で、2007年にE・S・マスキン、R・B・マイヤーソンとともにノーベル経済学賞を受賞した。90歳でのノーベル賞受賞は過去、最高齢である。

 「見えざる手」にゆだねるアダムスミス以来の伝統的経済学では、制度あるいは経済システムが与件として扱われ、市場は万能で効率的に価格決定がなされていると信じられてきた。実際には、バブル経済の発生など「市場の失敗」が起きている。ハービッツは制度そのものを変数とし、可能なあらゆる制度を取り込んだ枠組みを構築したうえで、失敗の要因として、すべての経済主体(市場参加者)が正しい情報をもっているわけではない点(情報の遍在)に着目した。正しい情報をもっている経済主体から、効率性を損なわずに情報を引き出す「動機整合性incentive-compatibility」という概念を導入し、ゲーム理論などを駆使して最適資源配分を精緻(せいち)に理論化した。

 メカニズム・デザイン基礎理論は、マスキンとマイヤーソンによって応用・拡張され、現在では携帯電話などの周波数、資源の採掘権の割当て、投票制度などに広く実用化されている。

[金子邦彦]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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