個人、企業、国家など、社会の競争状態のなかにある行動主体(プレイヤー)が、相手の出方を絶えず考慮に入れながら、自己の利益をもっともよく達成するための手段を合理的に選択するという行動を数学的に分析する理論であり、戦後、社会科学の分野に多く取り入れられて発展をみてきたものである。
この理論の核心部分は、すでに1928年に数学者フォン・ノイマンによって発表されていたが、その後、経済学者モルゲンシュテルンとの共著『ゲームの理論と経済行動』Theory of Games and Economic Behavior(1944)によって、競争状態における経済主体の行動分析として集大成された。
この理論の出発点となる競争状態のモデルは、「ゼロ和2人ゲーム」zero-sum two-person gameとよばれるものである。これは、2人でゲームを行うときに、双方がどのような手(あるいは戦略strategy)をとっても、一方がある額の利益を得れば他方はかならずそれと同額の損失を被るという場合、すなわち、ゲームの結果の双方の利益(または損失=マイナスの利益)の和がつねにゼロとなる場合である。
いま、ある産業に競合する2社、A社とB社が存在し、市場において互いに相手の出方を考慮しつつ自社のとるべき戦略を決定しようとしているものとする。両社のとりうる戦略はそれぞれ3種類あり、A社の戦略をa1、a2、a3とし、B社のそれをb1、b2、b3とする。そうすると、考えうる両社の戦略の組合せは9種となるが、そのそれぞれの結果が生じた場合に想定されるA社の利益を一覧表の形にして示すと利得行列pay-off matrixとよばれる。B社の利得行列は、この表数字の符号を正負逆にしたものとなる。
のようになる。表中、A社の利益を表す数字は例示であるが、このような表は このような状況が想定されるとき、A社の戦略決定は次のように行われる。A社が各戦略をとった場合、相手の出方によってもっとも困難な状態(すなわち、もっとも利益の少なくなる状態)となる場合を考える。そして、そのような状態のうちでもっとも有利な戦略を選択する。この例の場合、そのような戦略の組合せは(a2、b1)となり、A社は戦略a2をとることになる。他方、B社の戦略決定も同様に行われるものとすると、その戦略の組合せはやはり(a2、b1)となり、B社がb1の戦略を決定することによって、両社は同じ戦略の組合せに到達し、双方の決定が矛盾なく執り行われることになる。すなわち、A社が戦略iをとり、B社が戦略jをとったときの利得行列中の値をπijと書くと、A社の戦略決定は
で、B社のそれは
と表現され、両社は
となって均衡状態に到達することになる。
このように双方が満足のいく結果は「ゲームの解」あるいは「利得関数の鞍点(あんてん)」saddle pointといわれ、双方のとる戦略に確率を考慮した組合せを考える(混合戦略)ならば、ゲームの解はつねに存在する。これを「ミニマックス定理」minimax theoremといい、ゲームの理論の基礎をなすものである。
理論モデルは、さらに拡張され、プレイヤーの数が一般にn人の場合(n人ゲームn-person game)、プレイヤーの利得の総和がゼロとならない場合(非ゼロ和ゲームnon-zero-sum game)などについても研究がなされ、この理論は経済理論、経営科学の分野だけでなく、近年では政治学などにも広く応用されつつある。
[高島 忠]
『J・フォン・ノイマン、O・モルゲンシュテルン著、銀林浩・橋本和美・宮本敏雄監訳『ゲームの理論と経済行動』全5冊(1972~1973・東京図書)』▽『鈴木光男編『ゲーム理論の展開』(1973・東京図書)』▽『岡田章著『ゲーム理論・入門』(2008・有斐閣)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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