イギリスの経済学者。ポスト・ケインジアンの代表的な一人。弁護士の息子としてハンガリーのブダペストに生まれ,ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスを卒業。1932-47年同校で教える。はじめ一般均衡論的な正統派経済学の陣営に属してミクロ経済学の諸分野で業績を上げるが,ケインズ《一般理論》の発刊(1936)を機にマクロ経済学の諸問題に関心を移し,経済理論についての考えも一変させた。1940年〈景気循環のモデル〉を発表して巨視的動学論をリードし,以後循環より成長問題に比重を移して《一般理論》の長期動学化に精力的に取り組んだ。戦後,国連のヨーロッパ経済委員会勤務(1947-49)等を経て,49年ケンブリッジ大学に移り,理論と実際問題の双方に業績を上げ,20世紀において最も独創的かつ挑戦的な経済学者の一人と目されるにいたった。66年から75年の引退まで同大経済学教授。また,労働党政府の大蔵大臣顧問を務めた(1964-68,1974-76)。サッチャー保守党政権の登場(1979)による新経済政策を機にひき起こされた政策論争においては,ニュー・ケンブリッジ派の立場から批判的論陣を張った。広範な業績のなかでも特筆すべきは,ケインズ派所得分配理論の提出と,個人所得税に代わる〈総合消費税〉(同名の著書がある。1956)の提唱であろう。主要著作を収めた論文集全8巻(1960-79)がある。
執筆者:青木 達彦
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イギリスの経済学者。ハンガリーに生まれ、ロンドン大学を卒業後、同大学講師を経て1949年にケンブリッジ大学に移り、75年まで教授を務めた。彼の業績は多彩であり、初期には厚生経済学、不完全競争理論などで業績をあげたが、のちにケインズの影響を受け、ポスト・ケインジアンとして活躍した。その第一はケインズ体系の動態化であり、独自の景気循環理論を創案した。第二はその長期化であり、技術進歩関数を導入することにより、独特の成長理論を展開した。第三は分配論であり、ケインズの乗数理論を分配面に適用したケインズ派分配論を主張した。またケインジアンとして、新古典派理論、マネタリズムに対して鋭い批判を加えている。こうした理論的活動のかたわら、現実のイギリス経済に対して強い関心をもち、イギリスのEC加盟への反対、同国の租税改定への発言と総合消費税の提唱、サッチャー流経済政策への批判などで注目された。
[一杉哲也]
『N. KaldorCollected Economic Essays, 8 vols. (1960~80, Gerard Duckworth & Co. Ltd., London)』▽『N・カルドア著、時子山常三郎監訳『総合消費税』(1963・東洋経済新報社)』
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…豚肉にかぎらず家畜,野菜など,飼育や栽培の開始が自然条件などにより特定の季節に限定され,収穫までの期間が長く,かつ貯蔵することが困難な商品には,このような周期的変動がみられることがある。この変動を説明する理論は,1930年H.シュルツ,J.ティンバーゲンらにより提示され,34年W.レオンチエフとN.カルドアにより独立にほぼ完全な形に定式化され,価格と供給量を示す点の軌跡がクモの巣の張り方に似ていることから,カルドアによりくもの巣理論と名づけられた。 それは次のような理論である。…
… 他方,アメリカの経済学者グッドウィンR.M.Goodwinは,実際の資本量が最適資本量より小さいか,等しいか,あるいは大きいかによって,投資の大きさが変化するとし,加速度関係を非線形化して,循環的変動とともに成長の現れる理論を構築した。 さらに,それより前に,N.カルドアは,投資と実質産出額との関係,および貯蓄と実質産出額との関係が,それぞれ直線で表されるのでなく,非線形であるとし,この前提に資本蓄積の投資に及ぼす効果を考慮して循環的変動を説明するモデルを考えた。【藤野 正三郎】。…
…またソローRobert Merton Solow(1924‐ )は,価格機構に導かれて生産における要素間の代替がスムーズに起こり,さらに貯蓄と投資の均等ももたらされるとする新古典派経済成長モデルを提示し,経済が自然的成長率経路へ安定的に収束する姿を描いてみせた(新古典派的成長理論)。 これに対して,J.ロビンソン,N.カルドア,P.スラッファ,L.パシネッティらのポスト・ケインズ派(ポスト・ケインジアン)は新古典派に対する強力な批判を展開した。彼らの批判は,異質資本財を集計した新古典派の資本の概念を否定し,それと労働とのなめらかな代替を仮定するマクロの生産関数を否定し,利子率と資本集約度との一元的関係を否定することに向けられた(資本論争)。…
※「カルドア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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