改訂新版 世界大百科事典 「パルボウイルス腸炎」の意味・わかりやすい解説
パルボウイルス腸炎 (パルボウイルスちょうえん)
parvoviral enteritis
イヌを侵すウイルス性伝染病で,直接,間接の接触により伝播(でんぱ)する。とくに病犬の糞便(ふんべん)中には多量のウイルスが排泄される。1978年以来,世界の各地で発症が認められるようになった比較的新しい疾病で,すべての年齢のイヌが感染するが,5ヵ月齢以下の幼犬の症例が最も多い。体温は成犬では平熱か軽度の上昇がみられる程度であるが,幼犬は40℃以上の高熱を発する。しかし高熱は続かず,早期に平熱に戻り,重症では平熱以下になることもある。初め激しい嘔吐が起こり,一両日後から水様または血液を交えた激しい下痢が続く。したがって,患犬は激しい脱水症を起こして死亡する。また数週齢の幼犬ではウイルスによる心筋炎を起こし,発症後12時間以内に死亡するものもある。小腸は全域にわたって出血性腸炎を起こし,粘膜の絨毛基部の細胞(陰窩(いんか)細胞)が侵されるため,炎症は重度で修復には時間がかかる。治療は失われた体液と電解質を補う大量の補液療法を重点に行い,抗生物質によって二次感染を防ぐ。この療法で7~10日以上生存させることができれば救命率は高い。この疾病は白血球の減少が特徴で,2000/mm3以下になると致命率が高いといわれる。予防にはワクチンが効果的。現在の不活化ワクチンによる予防期間は短く,一度免疫を獲得しても,少なくとも年に2回は接種を受けることが望ましい。
執筆者:一木 彦三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報