フィッシャー合成(読み)フィッシャーごうせい(その他表記)Fischer synthesis

改訂新版 世界大百科事典 「フィッシャー合成」の意味・わかりやすい解説

フィッシャー合成 (フィッシャーごうせい)
Fischer synthesis

一酸化炭素水素化反応によって液体炭化水素燃料を合成する方法。1920年代の初め,ドイツのF.フィッシャーとトロプシュHans Tropsch(1889-1935)によって発明されたので,F-T合成法(フィッシャー=トロプシュ法)とも呼ばれる。石炭をガス化して一酸化炭素と水素からなる合成ガスに変えたのち,この方法で液体燃料を合成することができるので,石炭の間接液化法として位置づけることができる。第2次大戦中,日本やドイツなどで当時の工業的規模で実施された歴史があるが,現在は南アフリカ共和国のサゾールがこの方法でガソリンなどの液体燃料を生産しているのが唯一の工業的実施例である。しかし,石油代替エネルギーの開発の気運が高まるなかで,F-T合成法の技術改良研究が再び活発になっている。

 F-T合成反応は次のように表される。

 nCO+2nH2─→CnH2nnH2O

 2nCO+nH2─→CnH2nnCO2

この合成反応は,鉄,コバルトルテニウムなどの触媒の存在下で,温度230~330℃,圧力20~25気圧で行われる。反応生成物はメタンからワックスにおよぶ脂肪族炭化水素であり,直鎖オレフィンおよびパラフィンが主成分である。そのほかに,アルコール,アルデヒドケトンカルボン酸などの含酸素化合物が少量ながら副生する。

 反応装置の形式としてはサゾールではARGE型(固定床熱交換器タイプ)およびシンソール型(微粒末触媒気流搬送タイプ)が実用化されている。このほか,微粒末触媒を炭化水素油中にスラリー状に保持して中に合成ガスを吹き込む液相スラリー型が提案されている。大きな反応熱を効果的に除去でき,また水素対一酸化炭素比の小さいガスを原料とすることができるなどの点がスラリー法の特徴である。F-T法が普及するためには,ガソリンや灯油軽油など,望ましい製品だけを選択的に合成することができるよう,触媒を改良したり,反応器をくふうしたりする努力がなお必要である。
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百科事典マイペディア 「フィッシャー合成」の意味・わかりやすい解説

フィッシャー合成【フィッシャーごうせい】

触媒存在下での一酸化炭素の水素化による炭化水素の合成法。F-T合成法とも。1920年代にF.フィッシャーとH.トロプシュが発明。水性ガスを常圧,200℃内外で鉄,コバルト,ニッケルを主体とする触媒上に通じて,主としてパラフィン系,オレフィン系炭化水素を得る。第2次大戦中,ドイツ,フランス,日本で人造石油の製造を目的として利用された。
→関連項目ガソリン合成石油

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