人造石油artificial petroleumあるいは合成原油ともいう。オイルサンド,オイルシェール,石炭などを原料として生産される合成液体燃料であるが,とくに石炭の液化によるものを指すことが多い。第2次大戦の戦前から戦中にかけて,石油資源に乏しいドイツ,日本などでは,軍事上の目的から石炭液化の技術開発を熱心に進めた歴史がある。戦後の中東における豊富な石油資源の開発によって,合成石油事業は経済的には成立しがたくなったが,1970年代の石油危機以降,研究開発が再開された。
石炭液化は直接液化法と間接液化法に大別される。直接法の端緒は1913年にドイツのベルギウスによって開かれた(ベルギウス法)。これは石炭を高温・高圧下で水素化分解する方法であり,27年にはドイツのイーゲー・ファルベン社がロイナに最初の石炭液化工場を建設し,またイギリスではICI社が35年に石炭液化事業に乗り出した。日本でも第2次大戦前および戦中に海軍燃料厰,満鉄,日本窒素肥料工業などにより研究が進められ,本格的な工場も建設されたが,いずれも順調な運転に入る前に終戦を迎えた。石油危機後の石炭直接液化技術の開発研究は,その後の学問や技術の進歩をとり入れ,反応条件を緩和し,水素の消費量を引き下げ,経済性を向上させる方向で進められているが,まだ実用規模のプラントは稼働するに至っていない。
石炭の間接液化とは,石炭をひとまず合成ガス(一酸化炭素と水素との混合ガス)に変えたのち,コバルトや鉄系の触媒を用いて,液体の鎖状炭化水素を生産する方式をいう。この原理は1922年にドイツのF.フィッシャーとトロプシュによって発見された(フィッシャー合成)。南アフリカ共和国では商業規模で生産を実施しており,日本でも第2次大戦中,三井化学工業その他がかなりの規模で実施した歴史がある。とはいえ,なお技術的改良の余地がある。
執筆者:冨永 博夫
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