アメリカにおいて1993年11月に成立し、94年2月末に発効した銃規制法。時限立法により98年11月に失効。1981年のレーガン大統領暗殺未遂事件の際、銃弾を受け不治の障害を負った当時の報道官ジェームズ・ブレイディ夫妻が銃器購入規制運動に尽力したことにちなんでこの名がつけられた。同法は、1968年の銃規制法以来初めて成立した本格的な銃規制法であり、すべての短銃の購入に際して、5日間の保留期間を設け、この間に購入希望者の犯罪歴や精神障害歴の調査(バックグラウンド・チェック)を義務づけたことが主要条項。銃規制に関しては、全米でも有数の圧力団体である全米ライフル協会(NRA)が、憲法修正第2条を根拠に武器保有に関する国民の権利を主張し、強力な反対運動を展開してきたため、法案の議会通過は困難を極めてきた。しかし、銃による悲劇の続発により銃規制に賛同する世論が高まり、それを受けて6年間の論議のすえ同法が成立した。
銃購入に際しての待機期間はすでに25の州において設けられていたが、ブレイディ法は規定がない州で銃を購入するという抜け道をふさいだという点で意義があった。しかし、実際には正規のルート以外の方法で銃を入手する犯罪者が多いため、同法の成立は銃犯罪の減少を約束するものではなく、そのための第一歩にしかすぎない。クリントン大統領は、1994年9月「襲撃用」の19種類の自動小銃などの製造、販売、所有禁止条項(2004年失効)を含む犯罪防止法を成立させ、さらに、98年4月、58種類の外国製改造ライフル銃の輸入禁止を発表したが、全米ライフル協会のロビー活動や武器所有を保障する憲法等を背景に銃規制は進んでいないのが現状である。なお、1997年6月、アメリカ連邦最高裁は、ブレイディ法に定められたバックグラウンド・チェックの義務づけに関しては、憲法修正第10条を根拠に、連邦による州への不当な押し付けであるとして違憲判決を下した。
[川口 薫]
(井上健 東京大学大学院総合文化研究科教授 / 2007年)
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