日本大百科全書(ニッポニカ) 「銃規制」の意味・わかりやすい解説
銃規制
じゅうきせい
銃の販売、購入・保有・携行などに関する法的制限。アメリカにおける銃規制には大きく分けて三つの種類がある。
まず第一に、銃の供給側の規制であり、殺傷能力が高い銃(アサルト・ウエポン)や、連射能力を高める改造(バンプストックの装着)の禁止などがある。
第二に、銃使用者の規制である。販売する際に購入する側の犯罪歴を確認(バックグラウンド・チェック)したり、購入年齢制限を引き上げることなどで対応している。
第三の銃規制は、精神的に追い込まれていたり、言動があまりにも危険であると考えられる銃保有者に対して、緊急的に地元警察が銃を取り上げることができる治安当局の強制力である。「赤い旗を揚げる」ことから「レッドフラッグ(法)」といわれる。
ただ、この三つは強制力が弱いため、日本からみればいずれも隔靴掻痒(かっかそうよう)の規制だろう。強力な銃火器のみを放棄させるのではなく、銃のすべてを放棄させる「刀狩(かたながり)」のような強い強制力を伴う徹底した武装解除がなければ、銃犯罪の大幅な減少を実現するのはむずかしい。
ただ、そのような銃の抜本的な規制は、アメリカの現状では非現実的である。
まず、すでに一般に出回っている銃の数が、人口よりもかなり多いため、全員の銃を取り上げるような徹底的な規制を導入するのには莫大(ばくだい)な費用も時間もかかる。
さらに「銃を持つことで犯罪を抑止できる」という議論も、アメリカのなかで根強い。これは、銃が蔓延(まんえん)するなか、銃を持ち、自らの安全を守るほうが効果的であるという考え方である。実際、日本の26倍という国土の大きさを考えると、法執行機関が犯行現場に駆けつけるまでには時間がかかるため、なんらかの自衛措置を講じておく必要性も当然あるといえる。
また、銃規制が進むことに対しては、法の網をかいくぐって銃を独占するのはギャングなどの反社会勢力であることから、「一般の国民にとってはかえって危ない」という反論が、アメリカではつねにおこっている。
そして、憲法で保障されている銃を持つ権利を奪うのは、違憲であるという規制反対の声高な主張もある。銃保有の法的権利は憲法修正第2条の「武装権」に由来する。修正第2条は「規律ある民兵は自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保持し携行する権利は侵してはならない」と示している。個人が「規律ある民兵」にあたるかどうかはアメリカ国内でもさまざまな議論があるものの、そもそもアメリカの場合、イギリスの圧政から銃を持って独立した経緯があり、一種の革命権として銃を持つ権利が存在するというむずかしさもある。いずれにしろ、この修正第2条が銃所有の普及を提唱する人々の法的根拠となっているのは間違いない。アメリカでは銃を持って立ち上がる権利が基本的人権として認められている。
このように銃が増え続け、規制も進まない背景には、それを許さない複合的な理由がある。銃規制を批判する理由の背景には「全米ライフル協会(NRA)」の強力なロビー活動があることも否定できない。また、規制賛成派もそもそも「刀狩」的な強力な規制まで求めるような発想はない。
ただ、銃による殺人の数よりも銃による自殺の数が多いという事実もあり、銃規制が進まない現状は、アメリカ社会に大きな影を落としている。
[前嶋和弘 2023年2月16日]