プロトン性溶媒(読み)プロトンせいようばい(その他表記)protic solvent

改訂新版 世界大百科事典 「プロトン性溶媒」の意味・わかりやすい解説

プロトン性溶媒 (プロトンせいようばい)
protic solvent

O-H,N-H,F-Hなどのプロトン供与性(水素原子をプロトンとして放つ性質)の基を含む溶媒。これに対し,プロトン供与性をもたない溶媒は非プロトン性溶媒nonprotic solventと呼ばれ,これは極性を有しない非極性非プロトン性溶媒と極性を有する極性非プロトン性溶媒に分けられる。代表的なものは,前者についてはヘキサンベンゼンのような炭化水素後者ではエーテル類(例えばジエチルエーテル,テトラヒドロフランなど),ジメチルスルホキシド(CH32SO(略称DMSO),ジメチルホルムアミド(CH32NCHO(略称DMF),ヘキサメチルホスホリックトリアミド[(CH32N]3P=O(略称HMPA)などである。

 プロトン性溶媒は,(1)一般に誘電率が高いこと,(2)プロトンを受け入れる電気陰性度の高い酸素,窒素フッ素などの原子を含むため分子間で水素結合を形成し会合していること,(3)割合は非常に小さいが自己解離していること(たとえば2H2O⇄OH3⁺+OH⁻,2CH3CO2H⇄CH3CO2H2⁺+CH3COH⁻など)が特徴である。

 イオン性結晶や極性有機分子のような比較的強い正電荷ないし負電荷を有する(あるいは溶解により生ずる可能性のある)分子種を加えると,陰イオンは水素原子と,陽イオンは電気陰性の原子と相互作用することにより,それを溶解したり,それと反応したりする能力がある。この溶媒との相互作用を溶媒和といい,溶媒中での化学反応を考えるうえで重要な現象である。極性有機分子が溶媒と反応する現象は加溶媒分解(ソルボリシス)と呼ばれ,重要な有機反応の一つである。たとえば塩化t-ブチルを水,アルコール,ギ酸のようなプロトン性溶媒に溶かすと,溶媒分子による置換反応が起こる。

極性非プロトン性溶媒のなかでもDMSO,DMF,HMPAなどは高分子の優れた溶剤となるため,第2次大戦後の急激な高分子化学の発展とともに関心を集めたが,その後有機イオン反応の有用な溶媒でもあることが明らかにされ,有機合成化学上重要なものとなった。たとえば下式の反応はDMF中で行うと,水中で行った場合の120万倍の速さで進行する。

 CH3I+LiCl─→CH3Cl+LiI
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「プロトン性溶媒」の解説

プロトン性溶媒
プロトンセイヨウバイ
protic solvent

イオン化できるプロトンが含まれる溶媒.強弱に違いがあるが酸性である.たとえば,H2O,HCl,HF,H2SO4,NH3など.二つの溶媒分子間でプロトンを移動し,プロトンが付加した溶媒陽イオンとプロトンを失った溶媒陰イオンを生じる自己解離が起こる.自己解離定数は大きくなく,25 ℃ のH2Oで 10-14,-50 ℃ のNH3で 10-30 である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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