改訂新版 世界大百科事典 「ギ酸」の意味・わかりやすい解説
ギ(蟻)酸 (ぎさん)
formic acid
最も簡単なカルボン酸で,アリやハチなどの毒腺中に含まれていることからその名がある(ラテン語formicaはアリの意)。また,イラクサ,マツなど多くの植物中にも含まれる。イラクサに触れるとひりひりするのは,このギ酸によると考えられている。化学式HCOOH,沸点100.8℃,融点8.4℃,比重1.2202。無色で刺激臭のある液体で,水と任意の割合で混合し,エチルアルコール,エーテルともよく混じり合う。強い酸味を呈し,皮膚に触れると水ぶくれを生じる。酢酸よりはるかに強い酸である(pKa=3.77)。アルデヒド基をもつため還元性を示し,銀鏡反応を呈する。硫酸とともに熱すると容易に分解して一酸化炭素を生じる。この反応は実験室で一酸化炭素を発生させるのに適している。また,密閉器中で沸点以上に加熱すると分解して二酸化炭素と水を生じる。種々のアルコールとエステルをつくり,いろいろな金属と水溶性の塩をつくる。工業的には,高圧下で苛性ソーダと一酸化炭素を加熱してできるギ酸ナトリウムを硫酸で分解するか,一酸化炭素と水蒸気を直接高圧下(2000atm)で反応させて製造する。合成化学において還元剤として用いられるほか,種々の有機化合物の合成原料として利用される。そのほか,染色助剤,腐食剤,殺菌剤,めっき薬品,ゴム凝固剤,溶剤等としての用途は広い。また,皮なめしにも用いられている。
執筆者:井畑 敏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報