日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギ酸」の意味・わかりやすい解説
ギ酸
ぎさん / 蟻酸
formic acid
カルボン酸の一種であり、メタン酸ともよばれる。最初にアリの蒸留により得られたので、ラテン語のアリformicaにちなんで名づけられた。化学式HCOOH、分子量46.0。常温では無色の刺激臭のある液体で、皮膚に触れると水疱(すいほう)を生ずる。天然にはアリのほかにイラクサなどの植物にも含まれていて、イラクサに触れると皮膚がひりひりするのはギ酸によるといわれている。沸点100.8℃、融点8.4℃。水、エタノール(エチルアルコール)、エーテルによく溶ける。分子内にカルボキシ基(カルボキシル基)とアルデヒド基の両方をもつので、酸性と還元性を持ち合わせている。酸性は酢酸よりはるかに強い。工業的には、高圧下で一酸化炭素と水酸化ナトリウムとを反応させてギ酸ナトリウムをつくり、硫酸で酸性にすると得られる。いろいろな有機試薬や溶剤の合成、染色、皮なめしなどに用いられる。高等植物の種子や芽生えの子葉などに含まれるギ酸脱水素酵素により、ギ酸は二酸化炭素に分解される。
[廣田 穰]