改訂新版 世界大百科事典 「溶媒和」の意味・わかりやすい解説
溶媒和 (ようばいわ)
solvation
溶液中において溶質の分子やイオンは,近傍の溶媒となんらかの相互作用をして存在し,離れた周囲の溶媒とは異なる状態で溶存している。この現象を溶媒和という。この溶質-溶媒間相互作用は,イオンと有極性の溶媒分子(水,アルコールなど)との間の相互作用,有極性の溶質分子と有極性の溶媒分子(たとえばエチルアルコールと水)との間の相互作用など,主として静電気的なものである。この相互作用はイオン性の固体を溶かし,陰陽イオンの引力に打ち勝つだけの大きさをもつものである。そして溶質分子またはイオンはいくつかの溶媒分子と結びつき,それを配向させる。その結合はときとして化学量論的な関係を満たし錯体を形成しているとみなせることもある。こうした結果,溶液の巨視的性質は溶媒のみの場合の性質とは異なるものとなる。よく知られた性質は沸点上昇,蒸気圧降下,浸透圧などである。溶媒和を定量的にとらえようとするには,一定温度において溶媒和しているイオンを溶質から引き離すのに必要なエネルギー,すなわち溶媒和エネルギーなどのように熱力学的なとらえ方があり,また溶媒和数のように溶質分子と行動を共にする溶媒の分子数としてのとらえ方,さらにきわめて短い時間の間に溶媒和している分子(溶質最近傍の溶媒分子)とその外側に存在する溶媒分子との間の熱的運動による入れかわり(置換)をとらえようとする方法などがある。いずれにしても溶液中における溶媒和の現象とその機構を正確に把握するのは困難であり,通常の化学結合による物質の状態や性質を研究する場合に比べると不明な点が多い。
執筆者:橋谷 卓成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報