日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポストゲノム」の意味・わかりやすい解説
ポストゲノム
ぽすとげのむ
post genome
バイオテクノロジー分野の用語であり、ヒトゲノム解析研究で得られた成果を活用して行われるゲノム研究の総称。ヒトの遺伝子(塩基配列)を解読するヒトゲノム解析の完了が宣言された2003年以降、ゲノム研究は次の段階に進んだとして、ポストゲノムという用語が生まれた。ヒトゲノム解析の成果を活用しながら、同時に未解明の個別遺伝子の機能などについて拡大的に研究することを目ざしてきたが、現在は、ポストゲノム科学などのように総称的に用いられる場合が多く、ポストゲノムの主流は、ゲノムレベルの解析とその成果を生かした医療分野への応用へとシフトしている。
1990年代、アメリカとヨーロッパや日本の共同プロジェクトとして10年がかりで進められたヒトゲノム解析計画を中心に、種々のゲノム解読が活発に進められた。こうしたプロジェクトが進展するにつれて、得られた膨大な情報を活用するプロジェクトや研究テーマも新たに生まれた。ポストゲノム・プロジェクトを推進する流れは、現在さらに拡大している。たとえば、テーラーメイド医療(オーダーメイド医療)の実現化プログラム(第3期)では、国内の大学や医療機関が協力して、病気の原因の解明や治療用医薬品と遺伝子との関連に関する研究を進めている。特定の遺伝子が果たす役割や個人レベルでの遺伝子の違いと特定の病気との関係などが明らかになると、体質にあわせた治療法や有効な薬を検討するテーラーメイド医療が実現に近づく。さらには、個人のゲノム情報を調べた結果をもとにして、より効率的・効果的な診断や治療、予防を行おうとするゲノム医療の実用化についての検討も始まっている。ポストゲノム研究は生物学のさまざまな分野に影響を与えている。たとえば、情報の解析に威力を発揮するバイオインフォマティクスの進展や、発現するタンパク質の詳細な解析などによる生命現象と遺伝子との関係の解明、タンパク質などが生物の体内で代謝される仕組み(メタボローム)などがあげられる。
[飯野和美 2016年5月19日]
『宮木幸一著『ポストゲノムのゆくえ――新しい生命科学とバイオビジネス』(2001・角川書店)』▽『東京医科歯科大学生命倫理研究センター編『ポストゲノム時代の医療倫理』(2006・医学出版)』▽『倉光成紀・杉山政則編『構造生物学――ポストゲノム時代のタンパク質研究』(2007・共立出版)』▽『村上康文編『ポストゲノムの分子生物学入門』(2007・講談社)』▽『福嶋義光編『遺伝子医療の現状とゲノム医療の近未来』(2015・医歯薬出版)』