生物の細胞や組織内に存在するタンパク質や酵素が作り出す代謝物質の総称。20世紀末に分子生物学分野に登場してきた造語である。2000年代に入り研究がいっそう活発化するとともに、その代謝系全体やこれらの代謝物の解析(メタボロミクス)も広い意味ではメタボロームに含めるようになった。
ポストゲノム科学時代に入り、タンパク質の構造や機能を解析するプロテオミクスが進展するにつれて、細胞内のタンパク質の代謝産物を含めた代謝全般の解析の重要性に対する認識が高まった。また、メタボローム解析の主要な分析手段として、質量分析計を中心とした各種分析技術やシステムが格段に進歩した。そしてこうした解析技術の改善・効率化は、得られる解析データの質的・量的な拡大をもたらした。そこで、データ量の増大や高度化するデータ解析ニーズに対応するツールとして、バイオインフォマティクスとよばれるデータ解析の分野も大きく前進している。両者ともメタボロームの研究では欠かせない役割を担っている。
メタボローム研究に先鞭(せんべん)をつけた慶応義塾大学は、すでに癌(がん)の診断に役だつバイオマーカー(生物マーカー。とくに医学・診断分野では体の状態の変化を数値の変化として把握可能な指標となる物質をさす)の開発で数々の成果をあげている。他の研究機関や大学、企業からも、疾患の診断や、薬の投与後の影響のモニタリング等に役だつメタボロームを利用したバイオマーカーなどについて報告されている。その他、植物の研究や機能性食品の開発へのメタボローム研究の応用可能性について示唆する報告も発表されている。
[飯野和美 2016年5月19日]
『冨田勝・西岡孝明編『メタボローム研究の最前線』(2012・丸善出版)』▽『福崎英一郎監修『バイオテクノロジーシリーズ プロテオミクスの先端技術と応用』(2013・シーエムシー出版)』▽『末松誠・杉浦悠毅編『実験医学増刊 Vol.32 No.15 驚愕の代謝システム メタボロームの階層から解き明かす疾患研究の新たなステージ』(2014・羊土社)』
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