マンガン中毒(読み)まんがんちゅうどく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マンガン中毒」の意味・わかりやすい解説

マンガン中毒
まんがんちゅうどく

マンガンによる中毒で、マンガン鉱石を粉砕する作業、マンガン鋼アーク溶接・切断、乾電池製造などの職場で発生する酸化マンガン粉塵(ふんじん)やフューム(煙霧状粉末)を吸入すると、呼吸器を刺激して激しい咳(せき)と痰(たん)や肺炎の症状が現れる。マンガンの鉱石や酸化マンガンの粉塵の吸入が続くと、3~6か月で無気力、無関心、食欲減退、不眠症などの軽度の精神症状が現れ、やがてパーキンソン症候群とよばれる神経症状、すなわち、表情が笑っているようにみえる強迫笑、足を踏み出すと止まらなくなる突進症、字を書かせるとしだいに小さくなる小字症などがおこる。このほか、言語障害、手足の震え、けいれん、精神錯乱などの症状もみられる。また、マンガン化合物である過マンガン酸カリウムは、うがいや胃洗浄(0.1%)にも用いられるが、この1%溶液を経口摂取すると胃痛嘔吐(おうと)がおこり、5%溶液では胃腸管が腐食されて出血や感染症を招く。なお、労働衛生上の許容濃度は1立方メートル当り5ミリグラムである。

[重田定義]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

内科学 第10版 「マンガン中毒」の解説

マンガン中毒(重金属中毒)

(4)マンガン中毒(manganese poisoning)
定義・概念・疫学
 マンガン鉱山などで,かってマンガン粉じんの長期吸入によりパーキンソニズムなどの特異な神経精神症状をきたす中毒例がみられたが,近年は職場環境の改善により,発生件数は激減している.
病理
 大脳基底核の神経細胞の変性をみる.
病態生理
 マンガンは主として経気道的あるいは経口的に吸収され,血中ではトランスフェリンと結合して血液脳関門を通過し,中枢神経では特に大脳基底核に集積する.臨床症状 急性中毒はきわめてまれで,ほとんどが慢性中毒である. 精神症状として睡眠障害(夜間不眠,昼間傾眠),情動失禁,性格変化(刺激性・攻撃性),行動異常,幻覚・妄想がみられる.錐体外路症状として,パーキンソニズムとジストニアが特徴的である.
治療
 中毒の早期にはEDTAなどのキレート療法が行われる.錐体外路症状にはドパミン作動薬,トリヘキシフェニジールなどを試みる.[内野 誠]

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