マンガン(読み)まんがん(英語表記)manganese 英語

精選版 日本国語大辞典 「マンガン」の意味・読み・例文・類語

マンガン

〘名〙 (mangaan・Mangan) 原子番号二五の元素記号Mn 原子量五四・九三八〇四九。鉄についで最も広く分布する重金属クラーク数第一二位。純粋な単体銀白色。空気中では表面酸化される。化学的活性も高い。製鋼合金などに用途は広い。〔植学啓原(1833)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「マンガン」の意味・読み・例文・類語

マンガン(〈ドイツ〉Mangan)

マンガン族元素の一。単体は銀白色の金属で、鉄より硬くてもろい。鉄に次いで広く分布し、主鉱石軟マンガン鉱など。動植物体にも微量含まれ、発育代謝に不可欠。合金添加剤や鋼の脱酸剤などに利用元素記号Mn 原子番号25。原子量54.94。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マンガン」の意味・わかりやすい解説

マンガン
まんがん
manganese 英語
Mangan ドイツ語

周期表第7族に属し、マンガン族元素の一つ。1774年スウェーデンのK・W・シェーレによりその存在が推測され、同年、彼の友人ガーンJohan Gottlieb Gahn(1745―1818)は軟マンガン鉱(二酸化マンガンMnO2、酸化マンガン(Ⅳ)ともいう)を油と木炭粉末で覆い、るつぼ中で強熱して金属マンガンを得た。軟マンガン鉱は当時、磁鉄鉱magnesの変種とも考えられていてmagnesiaとよばれていた。そのころ酸化マグネシウムもmagnesiaとよばれており、それを区別するため軟マンガン鉱を黒いmagnesiaおよびmanganeseとよんだ。そのためガーンは、ここで得た金属をmanganesiumとした。1808年ドイツのクラプロートはそれまでに発見されたmagnesiumとの混同を防ぐためMangan(ドイツ語)を提案した。また、古代ローマ時代、すでにガラスに加えて青緑色を消すため軟マンガン鉱を利用しており、これにちなんだギリシア語のmanganizo(浄化)、manganon(魔法)に、その名前の語源があるともいわれる。

[守永健一・中原勝儼]

存在と製法

鉄に次いでもっとも広く分布する重金属であるが、遊離状態では産出しない。おもな鉱石は、軟マンガン鉱、ブラウン鉱3Mn2O3・MnSiO3、水マンガン鉱Mn2O3・H2O、サイロメレン鉱、菱(りょう)マンガン鉱などである。その他深海底などにはマンガンと鉄の酸化物がマンガン団塊として広く分布している。金属を得るには、二酸化マンガンを加熱して四酸化二マンガン(Ⅲ)マンガン(Ⅱ)MnMn2O4(四酸化三マンガンともいう)とし、これをアルミニウムとともに強熱するテルミット法があるが、品質のよいものが得られやすい電解法が主流である。硫酸マンガン(Ⅱ)水溶液を隔膜の存在下で電解して電解マンガン(99.97%)を得る。また、鉄鋼の脱硫、脱酸、マンガン添加剤として用いる目的で、フェロマンガン(マンガン70~80%と鉄の合金)の形で製造される。フェロマンガンは、マンガン鉱石とくず鉄、コークス、石灰を電気炉内で強熱してつくる。

 マンガン鉱石は、日本では岩手県などにごく少量産出するが、ほとんどが南アフリカ、オーストラリアなどから輸入されている。2010年のマンガンの世界の生産鉱量は年間約1390万トンで、主要国はオーストラリア(約22%)、南アフリカ(約21%)、中国(約19%)である。

[守永健一・中原勝儼]

性質

銀白色の金属。鉄に似た性質をもつが、鉄より硬くてもろい。α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の4種の同素体がある。室温ではαが安定。727℃でβとなり、βは1100℃でγ、γは1138℃でδとなる。αとβは硬くもろく、γは柔軟。粉末は発火性があるが、塊では湿った空気中ではさび、加熱水を急速に分解して水素を発生する。希酸には水素を発生して溶け、淡紅色(マンガン(Ⅱ)水和イオン[Mn(H2O)6]2+の色)の溶液となる。熱すると、ハロゲン、酸素、窒素、炭素などと直接化合する。化合物にみられるマンガンの酸化数は+Ⅱ~+Ⅶと広範囲にわたる。このうち、+Ⅱの酸化状態がもっとも安定で、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩などがある。+Ⅲの塩(たとえば、酢酸マンガン(Ⅲ)Mn(C2H3O2)3)は酸化剤である。フッ化物を除くと、ハロゲン化物は二価塩が得られるだけである。酸化物には+Ⅱ~+Ⅳおよび+Ⅶの酸化状態を含むものが知られる。酸化マンガン(Ⅳ)は、濃塩酸とともに熱すると塩素を発生し、酸化作用を示す。この酸化力が乾電池に利用されている。酸化状態が変化しやすいため酸化還元反応の触媒ともなる。過マンガン酸塩は強力な酸化剤であり、マンガン酸塩の水溶液は不安定で不均化しやすい。

[守永健一・中原勝儼]

用途

マンガンの添加により、強度、硬度、耐食性などの金属特性が改善されるので、鉄鋼および非鉄金属への合金添加剤として用いられる。たとえば、マンガン入り黄銅は、海水に対して耐食性があるため船のスクリューなどに使われる。また、マンガニン線(Cu80~85%、Mn10~15%、Ni2~5%、Fe1%)は、電気抵抗の温度係数が非常に小さいので、高級計測器の部品として用いられる。おもな用途は、特殊鋼(高級ステンレス鋼、電磁鋼板、非磁性鋼)や非鉄合金(アルミニウム合金、銅合金)、マンガン化合物の製造など。マンガン化合物には医薬、顔料、乾燥剤、酸化剤、分析試薬などの用途がある。すべての生物にとって必須元素であり、人体では微量元素として100万分の1程度含まれる。動物の飼料、植物の肥料などに炭酸マンガン(Ⅱ)などを少量加えて、欠乏症を防ぐために用いられる。

[守永健一・中原勝儼]

人体とマンガン

マンガンは人体に約15ミリグラム含まれ、その4分の1が骨、残りが肝臓、膵臓(すいぞう)、腎臓(じんぞう)などの臓器に含まれている。おもな生理作用は各種の酵素の構成成分で、酵素の作用を活性化することである。マンガンが不足すると成長阻害、骨格異常、糖質や脂質の代謝の異常などがおこる。また、過剰症には疲労、不眠、神経病などがある。通常の食事では不足や過剰の問題はないが、中心静脈栄養での不足例がある。食事からとるべき量については、「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)により、目安量、および過剰摂取による健康障害のリスクを下げるための上限量が設定されている。

[山口米子]

『佐佐木行美・高本進・木村幹・杉下龍一郎・橋谷卓成著『新教養無機化学』(1986・朝倉書店)』『日本化学会編『実験化学講座18 有機金属錯体』第4版(1991・丸善)』『糸川嘉則編『ミネラルの事典』(2003・朝倉書店)』『菱田明・佐々木敏監修『日本人の食事摂取基準2015年版――厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書』(2014・第一出版)』『経済産業調査会編・刊『鉱業便覧』各年版』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「マンガン」の解説

マンガン
マンガン
manganese

Mn.原子番号25の元素.電子配置[Ar]3d54s2の周期表7族遷移金属元素.原子量54.938045(5).安定核種が質量数55の同位体のみの単核種元素.質量数44~69の放射性同位体核種が知られる.1774年スウェーデンのK.W. Scheele(シェーレ)がパイロルース鉱中に新しい元素の存在を提唱し,協力者のJohann G.Gahnが同年,分離に成功した.元素名はパイロルース鉱の当時の名称“黒いマグネシア”Magnesia nigerを意味するラテン語magnesから.そのため,しばらくはマグネシウムとよばれた.マグネシアは錬金術の賢者の石の重要な成分と考えられていた.宇田川榕菴は天保8年(1837年)出版の「舎密開宗」で,満瓦紐母(マンガニュム)と記載している.日本語の元素名はドイツ語の元素名から.
パイロルース鉱MnO2が主要鉱石.そのほか,酸化物,水和酸化物,炭酸塩などの形で産出する.世界の確認埋蔵量の80% 弱が南アフリカ,10% がウクライナに存在する.海底にもマンガンノジュールとして大量に存在する.わが国はマンガン全量を鉱石(南アフリカ,オーストラリアから),フェロマンガンなど中間製品(中国,オーストラリア,南アフリカから),金属の形(中国から)で輸入している.国家備蓄対象鉱種の一つ.地殻中の存在度は1400 ppm.生物に必要な微量元素の一つ.いくつかの酵素の成分で,炭水化物,タンパク質,脂質を吸収する酵素のはたらきを助ける,骨・靱帯を強くするなどのはたらきがある.工業的金属製造法は,
(1)鉱石を還元したあと,希硫酸で浸出して,硫酸マンガン(Ⅱ)水溶液の電解,
(2)酸化物のアルミニウムによる還元(テルミット法),
などがある.フェロマンガンは鉱石の電気炉または高炉中の炭素還元で製造される.金属マンガンは銀白色であるが,炭素を含むものは灰色を帯びる.融点1244 ℃,沸点1962 ℃.密度7.44 g cm-3(20 ℃,α型).結晶構造:α(体心立方),β(体心立方),γ(面心立方),δ(体心立方)があり,転移点は次のとおり.

融解熱12.05 kJ mol-1.金属マンガンは鉄に類似しているが,硬くてもろく,電気的にさらに陽性である.第一イオン化エネルギー7.435 eV.標準電極電位 Mn2+/Mn-1.18 V.原子半径0.135 nm,イオン半径(配位数):Mn2+(4)0.066 nm,Mn4+(6)0.053 nm,Mn7+(6)0.046 nm.酸に溶けて水素を発生する.空気中で表面酸化,高温では酸素と反応してMn3O4を生じる.フッ素中では燃えてMnF2とMnF3とを生じ,塩素中ではMnCl2を生じる.窒素中で1200 ℃ 以上に熱するとMn3N2を生じる.そのほか水素以外の多くの非金属元素と直接化合する.普通,2~7までの酸化数をとる.1,0,-3もある.Mn-Ⅲ(CO)43-など.
用途は鋼の脱酸・脱硫のため高炉に添加するフェロマンガン用,靭性,耐摩耗性,耐食性にすぐれた特殊鋼(マンガン鋼)成分用,マンガニン(Mn 12~18質量%,Ni 5~4質量%,残り鋼の合金,標準抵抗用)など.そのほか,マンガン電池,フェライト磁石に用いられる.金属マンガンはアルミ缶用合金材料.需要の約95% は鉄鋼分野向けである.「マンガン及びその化合物」として化学物質排出把握管理促進法第一種指定,労働安全衛生法の名称等を通知すべき危険物及び有害物指定,大気汚染防止法・有害大気汚染物質/優先取組22物質の一つに指定されている.水道法水質基準は「マンガンの量に関して0.05 mg/L 以下であること」となっている.[CAS 7439-96-5]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「マンガン」の意味・わかりやすい解説

マンガン

元素記号はMn。原子番号25,原子量54.938044。融点1246℃,沸点2062℃。元素の一つ。1774年シェーレおよびJ.G.ガーンが発見。わずかに赤みを帯びた灰色の金属。鉄よりは硬くもろい。α,β,γ,δの同素体があるが,常温ではα-Mnが安定。空気中ではさびやすく,水を徐々に分解し,希酸に可溶。製鋼用脱酸剤として重要。フェロマンガン,マンガン鋼などの鉄合金のほか,銅,アルミニウムなどとの合金が広く知られ,強磁性のホイスラー合金もある。重金属としては鉄に次いで地殻に多く存在する。主要鉱石は軟マンガン鉱,水マンガン鉱,硬マンガン鉱などで,海底にもマンガン団塊のかたちで存在することが知られている。工業的には酸化マンガンをケイ素などで還元するか硫酸マンガンを電解してつくる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マンガン」の意味・わかりやすい解説

マンガン
manganese

元素記号 Mn ,原子番号 25,原子量 54.938049。周期表7族の金属元素。主要鉱石にはパイロルース鉱,サイロメレーン鉱,菱マンガン鉱,テフロ石などがある。地殻に広く分布し,平均存在量 950ppm,海水中には 2μg/l 含まれる。 1774年スウェーデンの化学者 K.シェーレによって発見された。単体は銀白色の金属であるが,炭素を含むと灰色となる。4つの同素体がある。融点 1244℃,比重 7.21~7.44。空気中では酸化されやすい。希酸と容易に反応し,水素を発生してマンガン (II) 塩となって溶ける。鉄鋼業において脱酸,脱硫剤として用いられ,また特殊高マンガン鋼,銅-マンガン合金,マンガンブロンズ,アルミニウム-マンガン合金,ニッケル-マンガン合金など重要な合金の構成金属として広く用いられている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典 「マンガン」の解説

マンガン【Mangan】

微量ミネラルのひとつ。元素記号はMn。健康な体を維持するために不可欠なミネラル。茶葉、種実類、穀類、豆類など、特に植物性食品に多く含まれる。体内で化学反応を促進する酵素補酵素の構成成分として、骨の石灰化や糖質脂質たんぱく質の代謝に働き、多くの酵素を構成する重要な役割をもつほか、神経機能の維持、記憶力向上、性機能・妊娠能力の減退予防、血糖値のコントロール、活性酸素を抑えて細胞膜の酸化・動脈硬化の予防などに効果が期待できる。

出典 講談社漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典について 情報

世界大百科事典 第2版 「マンガン」の意味・わかりやすい解説

マンガン【manganese】

周期表元素記号=Mn 原子番号=25原子量=54.9380地殻中の存在度=950ppm(11位)安定核種存在比 55Mn=100%融点=1244℃ 沸点=2097℃比重=7.44(α‐マンガン),7.29(β‐マンガン),7.21(γ‐マンガン),7.21(δ‐マンガン)電子配置=[Ar]3d54s2おもな酸化数=II,III,IV,VI,VII周期表第VIIA族に属するマンガン族の金属元素の一つ。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

食の医学館 「マンガン」の解説

マンガン

骨やたんぱく質の形成、炭水化物や脂質のエネルギー代謝、神経の刺激伝達、活性酸素の中和などにかかわっています。不足すると骨がもろくなり、発育不全などをまねきます。アマランサス、モロヘイヤ、青ノリ、クリ、ヘーゼルナッツなどに多く含まれています。成人1日あたりの目安量は男性4.0mg、女性3.5mg、上限は11mgです。

出典 小学館食の医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「マンガン」の解説

マンガン

 原子番号25,原子量54.93805,元素記号Mn,7族(旧VIIa族)の元素.必須微量元素.第六次改定日本人の栄養所要量では15〜69歳の男性で1日4.0mg,女性で3.0〜3.5mgとされている.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

インボイス

送り状。船荷証券,海上保険証券などとともに重要な船積み書類の一つで,売買契約の条件を履行したことを売主が買主に証明した書類。取引貨物の明細書ならびに計算書で,手形金額,保険価額算定の基礎となり,輸入貨...

インボイスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android