ミズゴケ(読み)みずごけ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミズゴケ」の意味・わかりやすい解説

ミズゴケ
みずごけ / 水蘚
[学] Sphagnum

コケ植物(蘚類(せんるい)綱)ミズゴケ科ミズゴケ属の総称。世界中に約300種、日本では約40種が知られる。湿った場所や沼地などに生え、植物体は直立し、茎の全長にわたってほとんど等間隔で数本の枝が束生する。枝のうち2~3本は茎に沿って下に垂れるが、他の枝は横または斜めに開く。葉は重なり合ってたくさんつき、卵形となる。葉の細胞は大形で葉緑体を含まず、ところどころに小さな孔(あな)をもった透明細胞と、細長い線状で葉緑体を含む緑色細胞の2種類がほぼ交互に並ぶ。透明細胞は多量の水分を含むことができるため、水分を含んだときは全体として淡緑色をしているが、水分がなくなると体は全体として乳白色となる。このため、ミズゴケは園芸上、保水材として広く利用され、ピートモスpeatmossともよばれている。

 ミズゴケは冷涼な地方において多くの種類がみいだされている。とくに湿地帯に多く、上へ上へと成長し、長年の間に厚いミズゴケの層をつくる。このような場所は酸性土となるため、有機物の分解もおこりにくく、いわゆる高層湿原とよばれる状態となる。日本では尾瀬ヶ原が有名である。

 日本に比較的普通にみられる大形のミズゴケには、オオミズゴケS. palustre、ウロコミズゴケS. squarrosum、イボミズゴケS. papillosumなどがあり、いずれも長さ20センチメートル以上になる。このほか、日本ではホソバミズゴケS. girgensohnii、ヒメミズゴケS. fimbriatum、ホソベリミズゴケS. junghuhnianumなどがみられる。

[井上 浩]

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改訂新版 世界大百科事典 「ミズゴケ」の意味・わかりやすい解説

ミズゴケ (水苔)

蘚類のミズゴケ科ミズゴケ属Sphagnumの総称。ピートモスpeat mossともいう。世界に約300種,うち日本に約40種あり,特に高山や高緯度地域に多い。特に地球の全表面積の1%以上に達するミズゴケ湿原では,大群落をなして広大な面積を占める。植物体は一般に白緑色でしばしば赤みをおびる。茎は直立し,ほぼ等間隔に数本ずつの枝を輪生し,その枝の一部は下垂して茎の表面を覆い,他は横に広がる。葉はうろこ状で中央脈がなく,透明と緑色の2種類の細胞からなる。透明細胞は大きく,中空の死細胞で水を蓄える。蒴(さく)は偽柄(配偶体の組織が蒴柄状となったもの)の上に生じ球形蘚蓋が破裂して瞬間的に胞子を放出する。寒冷地では枯死したミズゴケの植物体が腐敗・分解せず長く地下に堆積して泥炭となる。ミズゴケの植物体は吸水・保水にすぐれ腐りにくいので,各種の着生植物や湿生植物の栽培の用土として,またかつては梱包用の詰物として利用された。日本に最も普通にみられ,利用されるミズゴケはオオミズゴケS.palustre L.で全国的に広く分布する。植物体は大きく長さ10cmをこえる。
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百科事典マイペディア 「ミズゴケ」の意味・わかりやすい解説

ミズゴケ

ミズゴケ科のコケ植物蘚類。世界に約300種,日本にも約40種が知られる。酸性の水湿地,特に高層湿原に多く,ツンドラの主要構成種としても知られる。淡緑色,ときに赤褐色の群落をつくり,植物体の古い部分は枯死して泥炭となる(ゆえにピートモスとも呼ばれる)。茎は長くのび,多数分枝して,舌状の葉を密につける。葉は葉緑体をもつ細長い細胞と,大型で葉緑体のない透明細胞とからなり,後者は水分の保存に役立つ。吸水・保水力を利用して,湿生・着生植物の栽培用土,植木の移植などに用いられる。
→関連項目指標植物

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世界大百科事典(旧版)内のミズゴケの言及

【尾瀬ヶ原】より

…ナガバノモウセンゴケは本州唯一の確実な産地であり,オゼコウホネは北海道などにあるネムロコウホネと同じもので,氷期の遺存種とみなされている。原の特異な景観の構成に重要な役割を果たしているミズゴケは20種に及び,キダチミズゴケが広範囲に生育していることなど種構成およびその生態からみて日本では他に類例を見ない。また,動物では本州における北方系のトンボ類のほとんど全部がここに生息し,北方系のトンボの世界における事実上の南限とみなされている。…

【コケ植物(苔植物)】より

…南極の昭和基地の周辺にも,数種の蘚類が生育している。寒冷な地域の湿原にはミズゴケが多く,その遺体は腐らず堆積して泥炭層をつくる。熱帯の湿潤な山岳地帯には蘚苔林mossy forestというコケの非常に豊富な森林が発達し,多くの種類のコケが樹幹を厚くおおい,枝からも垂れ下がって特異な景観を呈する。…

【湿原】より

…ヨシ原に代表されるが,オギはヨシよりも浅いところに,マコモ,ヒメガマは深いところに出現する傾向がみられ,沼沢植物の分布は水深と関係する。 泥炭湿原は,植物遺体の分解量が生産量を下回るためヨシ,スゲ類,ミズゴケ類などの植物遺体が集積し泥炭化するところに形成されるので,寒冷な亜寒帯・冷温帯に多い。低温でなくても貧栄養な水に涵養されれば植物遺体の分解が遅くなるので,熱帯にも泥炭湿原は出現するが,熱帯の泥炭は樹木の遺体が主体である。…

※「ミズゴケ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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