改訂新版 世界大百科事典 「ミナンカバウ族」の意味・わかりやすい解説
ミナンカバウ族 (ミナンカバウぞく)
Minangkabau
インドネシアの1種族。マレー語系のミナンカバウ語を話す。水稲耕作,商品作物栽培,家内工業,商業を主たる生業とする。故地である現在の西スマトラ州に300万人,インドネシアの他地域に130万人在住すると推定される(1980)。マレー半島のヌグリ・スンビラン(九つの国の意で,マラッカ王国の西隣の地域)も,かつてミナンカバウ移住民によって植民されたものである。伝承では,アレクサンドロス大王の末裔という。14世紀より19世紀初頭まで王を頂いていたが,王権はきわめて脆弱なもので,ナガリ(ムラ)が強い自律性を有していた。ミナンカバウ族は,現存する世界最大の母系制社会を形成することで知られる。19世紀前半のオランダ統治以降さまざまな変容をとげながらも,スク(母系氏族)の存続,家督の母系相続など,今なお母系制社会の諸原理を保有している。インドネシア諸種族のうち強固なイスラム教徒としても知られ,インドネシアの代表的イスラム知識人を輩出している。母系制と父系制的色彩の濃いイスラムの共存は,人類学者,社会学者によって大きななぞと考えられてきたが,ミナンカバウ族自身は両者のあいだに対立を認めていない。またムランタウ(出稼ぎ。広義には知識,富,名声を求めての出村)の習慣によっても知られ,現在はジャカルタをはじめインドネシアの諸都市に多く移り住んでいる。移住民の多くは商人であるが,昔からイスラム教育や一般教育にも熱心であり,都市知識階層の一翼も担っている。20世紀初頭以降,文学,ジャーナリズム,民族主義運動の分野で目覚ましい活躍をみせたが,1958-61年の西スマトラの反乱(インドネシア共和国革命政府(PRRI)を樹立し,反共産主義,反ジャワを標榜した)後は,中央での影響力を失った。しかしスハルト体制の確立に伴い,近年中央政界においても再び力を伸ばしつつある。インドネシアの諸種族の中でも,非常に強い種族意識をもっている人々である。
執筆者:加藤 剛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報