改訂新版 世界大百科事典 「ムフタシブ」の意味・わかりやすい解説
ムフタシブ
muḥtasib [アラビア]
市場監督官を意味することば。アッバース朝時代には,カリフやワジール(宰相)によって任命された。本来の職務はイスラム法の諸規定が守られているかどうかを広く監督することであった。ラマダーン月の断食が守られているかどうか,飲酒の禁が犯されていないかどうか,離婚した女性が法律の決める待婚期間(イッダ)を守っているかどうかなど,社会倫理にかかわるあらゆる事がらに監督権をもっていた。都市の行政・警察権に関係することもあった。しかし,時が経つにつれ,権限は商業上のそれに限られるようになった。取引の不正,および量目のごまかしを防ぎ,負債の返済の不履行がないように努めた。ムフタシブの実際のあり方は多様であるが,19世紀イスファハーンでは,広場の北端,バーザールの入口前に据えつけられた石のベンチに腰をかけ,毎日ここで監督業務を行った。棍棒と鞭を手に持ち,違反者,罪人を処罰した。夜は門の閉じられたバーザール内を巡回し,警備にあたった。
執筆者:坂本 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報