硬骨魚綱タラ目メルルーサ科メルルーサ属Merlucciusの海水魚の総称。世界で12種が知られており、このうちの1種European hake(Merluccius merluccius)がヨーロッパからアフリカ北部、地中海、黒海沿岸に、2種Benguela hake(M. polli)とSenegalese hake(M. sensegalensis)がアフリカ大西洋岸に、2種Silver hake(M. bilinearis)とOffshore hake(M. albidus)が北アメリカ大西洋岸(1種はベネズエラ沿岸まで)に、3種Southern hake(M. australis)、Cape hake(M. capensis)、およびDeepwater cape hake(M. paradoxus)が南アメリカの太平洋と大西洋両岸に、2種Panama hake(M. angustimanus)とNorth Pacific hake(M. productus)が北大平洋岸に、残る2種Chilean hake(M. gayi)とArgentine hake(M. hubbsi)が南アメリカの太平洋と大西洋にそれぞれ分布している。なお、南アメリカ産のSouthern hakeはニュージーランド海域にも生息している。日本からは茨城県那珂湊(なかみなと)沖でSouthern hake(和名はヒタチダラ)が、北海道釧路(くしろ)沖と青森県八戸(はちのへ)沖でNorth Pacific hake(和名はシロガネダラ)がとれる。
本属の魚は体が細長くて側扁(そくへん)し、口は大きくやや斜位で、上顎(じょうがく)の後端は目の中央下を越える。背びれ2基、臀(しり)びれ1基で、腹びれは胸びれより前方にある。下顎の先端にひげがなく、第2背びれと臀びれの縁辺が中央付近でへこむことなどで、ほかのタラ類から区別できる。体色は背側が青灰色か青褐色で、腹側は白い。深海性の種では全体に黒褐色を呈する。いずれの種も大陸棚から大陸棚斜面上部(水深100~800メートル)にかけて生息する。食性や成長度は魚種や海域によって異なる。
ヨーロッパ産のEuropean hakeは1年で16センチメートル、2年で20センチメートル、その後は年間8~9センチメートル程度成長し、9年で平均体長73センチメートルとなる。最大体長は1.3メートルである。しかし、7年魚の平均体長は地中海で30センチメートル、アイルランドで65センチメートル、モロッコ沖で78センチメートルと、生息海域によって大きく異なる。産卵期は非常に長く、海域によって異なる。地中海では12月~6月、西アイスランドでは4月~7月、西スコットランドでは5月~8月であり、北ほど遅い。地中海では多くの雌は7年(体長36~40センチメートル)で、雄では5年(体長26~27センチメートル)で成熟し、産卵は水深100~300メートルで行われる。抱卵数は200万~700万粒。若魚はもっぱら中層にいるハダカイワシやキュウリエソなどの小魚とアミ類などを食べる。成魚はきわめて魚食性が強く、タラ類、アジ、サバ、ニシン、ニギスなどを捕食するほか、同種の若魚さえ盛んに共食いする。この共食い現象は個体群密度が過大になることを防ぐ調節機構ともみられる。おもな漁場はスコットランドの北部と西部、アイルランドの西部と南部、ビスケー湾、ポルトガル沿岸および北アフリカ西岸の各海域で、スペイン、フランス、ポルトガル、イタリア、ギリシア、モロッコなどが中層~底層トロール、延縄(はえなわ)、底刺網(そこさしあみ)などで漁獲する。西ヨーロッパの人々にとって昔から重要な食糧資源で、鮮魚、冷凍魚、干物、塩蔵、缶詰などにされる。
日本でメルまたはメルルーサの商品名で売られているSouthern hakeはニュージーランド南島周辺海域およびその周囲の海膨や海台から漁獲される。主として600~800メートルに生息する。8月ころには浅所に移動して、水深600メートルくらいで産卵する。幼魚は100メートル以浅の沿岸域で生活する。成長につれて深所に移動する。雌は5~6歳で50~60センチメートルになり成熟する。最大体長は132センチメートルで、寿命は30年ほどであると推定されている。魚類のほか、イカ類、エビ類も捕食する。
日本はニュージーランド海域から1976年(昭和51)に5000トン、1977年に2万トン(韓国漁船を含む)を漁獲したが、1978年に200海里漁業水域が設定されてから、漁獲量が激減した。この類の資源量は減少しており、1980年に商業漁獲許容量(TACC:Total Allowable Commercial Catch)が導入されたが、当時のTACCは6500トンで、そのうち日本には500トンが割り当てられた。1985年には周辺海域を含めると、日本の割当量は2000トンほどであった。2010年~2011年のTACCは4万4848トンで、世界で約3万9000トンが漁獲された(国連食糧農業機関:FAOの漁業統計による)。
日本では冷凍切り身として販売されており、フライ、ムニエル、煮つけなどが好評である。
[岡村 收・尼岡邦夫 2016年6月20日]
タラ目メルルシウス科Merluccidaeの海産魚の総称。大西洋および太平洋北部に分布。体は比較的長く,タラに似ているが,下あごがやや突出し,ひげはない。背びれは2基,しりびれは1基で,第2背びれとしりびれの基底は長い。体色は黒灰色。体は軟らかく,はがれやすい小さな円鱗で包まれている。全長50cm~1.2mに達する。夜行性で,小魚,甲殻類,軟体動物などを捕食する。Merluccius capensisはアフリカの大西洋側に多く,深海性で,日本のトロール船団もその漁業にたずさわり,漁獲物は日本の市場にも出荷されている。M.bilinearisは北大西洋の比較的浅海にすみ,漁獲量も多い。ヨーロッパでは塩干魚として,日本では切身として売られ,フライなどに料理される。
執筆者:日比谷 京
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