「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約は、領海を沿岸から12カイリ(約22キロ)、石油、ガスなど天然資源の開発の権利がある排他的経済水域(EEZ)を200カイリ(約370キロ)以内と規定している。大陸棚は原則として、EEZに当たる海域の海底を指す。条約加盟国は、海底地形などの条件を満たせば、範囲を延ばす「大陸棚延長」を国連に申請することができ、認められるとEEZと同様の経済活動が可能になる。
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大陸(あるいは島)に隣接する海底で,低潮線から始まり,大洋の深所に向かって傾斜の著しい増加がおこるところまでをいう。この傾斜変換点を連ねた地帯を大陸棚外縁shelf edgeという。大陸棚面積は全海洋面積の7.4%で,北半球では12%,南半球では3.9%である。三大洋のうち大西洋が9.9%,太平洋5.2%,インド洋4.2%である。大陸棚外縁の深さは30~600mにわたるが,多くは約140mである。大陸棚の幅は0~1400km,平均して約72km,平均傾斜0°7′といわれる。第四紀の氷河時代には4回以上の氷期とそれらの間の間氷期があったといわれ,氷期には海水面が低下し,間氷期には上昇した。この海水面昇降に伴う浸食と堆積の過程を通じて大陸棚が形成されたが,大陸棚外縁がつくられたのは氷河が最も発達した約1.8万年前のウルム氷期の時代であったと考えられている。大陸棚上には海水面昇降を示す各種の沈水地形や堆積物が残されている。大陸棚上の海底段丘とそれに伴う旧汀線堆積物,溺れ谷とその埋積谷の存在,大陸棚外縁深度の斉一性などがそれである。大陸棚外縁が140mを超えて異常に深い場合があるが,それらは地域的沈降運動が長期にわたって続いたこと,あるいは大陸氷河(氷床)が発達した高緯度地域で氷河浸食が海底にまで及んだことがその原因とされている。大陸棚の成因は海水面昇降と構造運動との和であるが,大陸棚の海底下地質構造をみるとさらにいくつかのタイプがある。すなわち,長期的沈降運動に伴い厚い浅海性堆積層が形成されるもの,外縁部に背斜構造やサンゴ礁,岩塩ドームなどの高まりがあってその間を埋積して広い大陸棚を形成するもの,あるいは外縁部に断層や撓曲(とうきよく)などの構造運動がみられるものなどである。一般に大陸棚を水深200mまでとする考えは,概略的に大陸棚を把握するもので必ずしも誤りではないが,地形学的には正確ではない。
執筆者:佐藤 任弘
大陸棚は陸水の流入に伴う栄養塩の供給のほかに,波浪(内部波も含む)や潮汐による鉛直混合や,冬季などに表層から冷え込むことによる対流,また大陸棚外縁部に生じる沿岸前線によっても著しい鉛直混合が生じて栄養塩に富む。そのうえ光合成層の深さが海底に達する場合も多いので,生産された有機物の下方への散逸もない。このため底生生物も含めて栄養的には恵まれた状態にある。また沿岸前線が障壁となって魚群を集めることもある。さらに海底が平たんで浅いので,底引網などの操業にも適している。世界の三大漁場として知られる日本近海,北海,グランド・バンクス(ニューファンドランド近海)は主として大陸棚上に位置する。
執筆者:二村 義八朗
国連海洋法条約(1982)によると,沿岸国の大陸棚とは,沿岸国の領海を越えてその領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部(コンチネンタル・マージン)の外縁まで延びている海面下の区域の海底およびその下部をいう(76条1項)。しかし,(1)大陸縁辺部の外縁が領海の幅を測定するための基線から200カイリの距離まで延びていない場合には,当該基線から200カイリまでの海面下の区域の海底およびその下部とする(同項)。(2)大陸縁辺部が当該基線から200カイリを超えて延びている場合には,次のいずれかの線を大陸棚の外側の限界の線とする。(a)堆積岩の厚さが基線から大陸斜面(コンチネンタル・スロープ)脚部までの最短距離の少なくとも1%であるような最も沖合側の定点を結ぶ線か,(b)大陸斜面脚部から60カイリを超えない定点を結ぶ線(同条4項(a))。ただし,この線は,当該基線から350カイリ,または水深2500mの等深線から100カイリ(いずれか遠い方)を超えてはならない(同条5項)。また同条約によると,大陸縁辺部とは,沿岸国の陸塊の海面下の延長部分からなるものであり,大陸棚,大陸斜面(コンチネンタル・スロープ)およびコンチネンタル・ライズの海底およびその下部で構成される(同条3項)。つまり,国連海洋法条約は,法律学上の大陸棚を,地理学上の大陸棚をこえて大陸縁辺部まで含むものとして定義し,さらにそれに加えて,距岸200カイリを超えるか超えないかを区別して,それぞれ数字で明確に示される人為的な(大陸棚外側の)限界線を設定したのである。これは,それまでの水深200mを基礎とする大陸棚の一般的概念より大きく拡張されたものであるが,新概念成立の背景には,1969年に北海大陸棚に関して国際司法裁判所が下した判決の中の〈大陸棚は沿岸国の領土の海中へ向けての自然の延長である〉という考え方の影響が見られる。
1945年9月28日にアメリカのトルーマン大統領が大陸棚宣言を行って以来,大陸棚が国際的に注目されるようになった。同宣言は,〈アメリカの沿岸に接続する公海海底の大陸棚の天然資源は,アメリカに属し,その管轄と支配に服する〉と主張した。その後,国際連合の国際法委員会における審議を基礎に58年の第1次海洋法会議で採択された〈大陸棚に関する条約〉(略称,大陸棚条約)は,大陸棚に関する法制度を樹立した。それによると,大陸棚の範囲は,領海に接続する上部水域の水深が200mまでの海底区域とするが,それ以上の深さでも天然資源の開発が可能な区域はそれに含めると定められた。つまり,ほぼ地理学上の大陸棚を基礎としつつ,それに開発可能性という基準を加えたのであった。しかし,現実にはその後,海底資源開発の技術が急速に進歩し,水深200mをはるかに超える開発が可能となった。そのため〈開発可能な限度まで〉では,沿岸国の大陸棚が無制限に深海底に向けて拡大されるおそれが生じた。第3次海洋法会議では,大陸棚の外側の限界についてさまざまな提案がなされたが,結局,上述のような大陸縁辺部までを含めた新しい大陸棚概念が採用された。さらに,大陸棚の外側の限界を数字によって明確に定めたことは,大陸棚の外側に新たに設けられた深海底との境界を明確なものとした。こうして,公海の海底についても,沿岸国の管轄に服する大陸棚と,その外側の,国際的管理に服する深海底という,新たな二元的構造が成立することとなった。
国連海洋法条約においても,大陸棚に対する沿岸国の管轄権には,1958年大陸棚条約の下での制度と変化がない。すなわち,沿岸国は,大陸棚を探査しその天然資源を開発するため,大陸棚に対し主権的権利を行使する。大陸棚の天然資源とは,主として石油,天然ガスのような地下の鉱物資源であるが,大陸棚上に定着する生物資源も含まれる。大陸棚に対する沿岸国の権利は,その上部水域の公海としての法的地位およびその上空の法的地位になんら影響を及ぼすものではない。また,すべての国は,大陸棚に海底電線および海底パイプラインを敷設する権利を有する。そのほか,国連海洋法条約は,200カイリを超える大陸棚部分の鉱物資源の開発から得られる収益の一部を沿岸国が拠出するものとし,それが,開発途上国とりわけ後発開発途上国および内陸国の利益と必要とに考慮を払いつつ,衡平な配分基準に基づいて,条約当事国の間で配分されるものとした。
大陸棚の境界,すなわち同一の大陸棚に接して2以上の国が向かいあっているか,または隣接している場合の大陸棚の境界画定に関しては,第3次海洋法会議でも最も紛糾し,最後まで決着がつかなかった。結局,国連海洋法条約は,境界画定が,衡平な解決を達するように,国際法に基づき合意によりなされなければならないと規定するにとどまった。
日本は,従来,〈大陸棚条約〉に加入せず,大陸棚に対する主権的権利を認めた国際慣習法に基づいて大陸棚活動を行ってきたが,1996年に国連海洋法条約を批准するに際して〈排他的経済水域及び大陸棚に関する法律〉を制定した。
→海底地形 →海洋法
執筆者:尾崎 重義
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海岸の低潮線から沖合いに向け深さが急に増大する所までの地域。非常に傾斜が緩やかで、傾斜角は平均でわずかに0度7分にすぎない。深さの傾斜が急増する所(大陸棚外縁)の深さは、場所によって30メートルから600メートルぐらいまであり、大陸棚の幅も、ほとんどないに等しいものから1400キロメートルにも及ぶ所まである。平均すると大陸棚の幅は72キロメートル、外縁の水深は140メートルとされている。海底は非常に平坦(へいたん)で、比高20メートルを超える凹凸はほとんどないが、ときには海底谷や海底凹谷などが刻まれていることもある。
大陸棚の成因については、氷河期が関係していることが定説となっている。もっとも一般的には、いちばん最近の氷河期、ビュルム氷期(約2万年前)のおり、海水は雪氷となって大陸上に滞留したため海面が低下し、その過程で波食により平坦面ができ、ふたたび海面の上昇により水没して大陸棚になったと考えられている。ビュルム氷期最盛期の氷河の広がりや厚さの推定を基にして、海面の低下を計算すると、現在より100~150メートル低かったことになり、大陸棚外縁の平均の深さと一致する。
氷期の海面低下時に、河口部に発達した沖積平野が、海面の上昇により水没して大陸棚になったと考えられる場合や、氷河期に海に押し出された大陸氷河が海底を氷食して平坦面をつくり、氷河が溶けたあとに大陸棚となったと考えられる場合もある。
大陸棚は、これまでも底引漁業や沿岸漁業の好漁場として利用されてきたが、最近ではさらに養殖漁業の場として活用される一方、海底油田や海底炭鉱などの海底資源の場、海上空港や埋立てによる臨海工業地帯の造成など海洋空間としての利用など、ますます価値が高まってきた。この大陸棚を自国の権益のもとに置こうとして、大陸棚の専有を宣言する国も相次いだ。しかし、その定義がまちまちで混乱がおこっているため、国連海洋法会議において統一が図られつつある。大陸斜面脚部の勾配(こうばい)変化の最大の所を基点とし、外側に60海里まで、または堆積(たいせき)層の厚みが基点からの距離の1%に減少する所までのいずれかとされている。ただし最小でも海岸から200海里まで、最大でも350海里または水深2500メートルの外側100海里以内とされている。
[安井 正]
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(小林和男 東京大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
… 大陸斜面slopecontinental slope―island slope―大陸棚外縁からコンチネンタルライズの始まるところまで,あるいは傾斜の一般的減少が起こる地点までの斜面。 大陸棚shelfcontinental shelf―island shelf―insular shelf―大陸に隣接する(あるいは島の周囲)地帯で,低潮線から始まり,大洋の深所に向かって傾斜の著しい増加が起こる所までをいう。 大陸棚外縁shelf edgeshelf break―傾斜の著しい増加が起こる大陸棚の外縁の狭い地帯。…
…
[海の深さ]
世界の海洋の深度は,平均約4000mであるが,世界で最も深い記録は,太平洋のマリアナ海溝にあり,1万0920mにも達する。一般に海面から約200mの深さまでは陸地の延長とみられ,大陸棚と呼ばれる(図2)。ここから約4000mまでの深さの海底の占める面積は小さく,その傾斜は急で,これを大陸斜面という。…
…
[大陸縁辺部]
大陸(または島)の周辺には浅く平たんな海底があり,その外縁で急に傾斜を増大し深海に達している。この平たん部が大陸棚,急斜面が大陸斜面,傾斜変化部が大陸棚外縁である。大陸斜面下部には大陸性堆積物が大洋底に向かって広がっている階段状あるいは緩斜面の地形があり,コンチネンタルライズといわれる。…
…最近の海洋利用は質量ともに目覚ましいものがあるが,それを反映して海洋法の規制する範囲も多岐に及んでいる。すなわち,(1)公海,領海,排他的経済水域などの水域で構成される海洋秩序,(2)海洋や海峡における航行や上空飛行の問題,(3)生物資源や鉱物資源などの開発の問題,これに関連して大陸棚や深海底などの新たな法制度,(4)海洋汚染,海洋環境保護の問題,(5)海洋の科学的調査,海洋技術の開発と移転の問題などである。海洋法は,国際法のなかでも最も古い歴史をもつ分野であるが,〈海洋法Law of the Sea〉という言葉が用いられたのはごく最近である。…
※「大陸棚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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