ヤジーディー教(読み)ヤジーディーきょう(英語表記)Yazīdī

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ヤジーディー教
ヤジーディーきょう
Yazīdī

クルド人の少数が信仰する宗教。おもにイラク北部,トルコ南東部,シリア北部,カフカス地方,イランの一部に分布し,信徒の総数は 20万~100万人と推計される。教義にはゾロアスター教ユダヤ教ネストリウス派キリスト教,イスラム教などの要素が含まれる。発祥の地はイラク北部のクルド山地である。12世紀初頭,イスラム神秘主義者(→スーフィズム)でウマイヤ朝の末裔であるアディ・イブン・ムサフィルがモースル北方のラリシュに定住し,アドウィヤと呼ばれる教団を創始した。ムサフィル自身の教義は正統派だったが,信奉者たちの信仰はまもなく地元の伝統と融合したものとなった。12世紀半ばには,モースル周辺に信徒の社会が成立していたことが史料に確認される。地理的分布と政治的勢力は 13~14世紀に拡大を続けたが,15世紀初頭に周辺のイスラム教支配者らから邪教徒や政治的敵対者とみなされ,衝突が生じるようになった。19世紀末から 20世紀初頭,迫害を避けるために多数の信徒がカフカス地方へ逃れ,20世紀後半にはトルコの信徒の大半がドイツに移住した。ヤジーディー教の宇宙創生論では,創造主である最高神が世界をつくり,七大天使に支配をゆだねたとされる。天使の長マラク・ターウース(孔雀天使)はクジャクの姿で描かれ崇拝される。神の法を犯した場合には輪廻によって罪があがなわれ,転生のたびに霊魂が浄化されると考えられている。ヤジーディー教の神話にも天国地獄が含まれる。日常のさまざまな生活を律する多様なタブーがあり,種々の食品の摂取が禁じられている。外部との接触を避けることが求められ,排他的であり,厳しい階級制度が守られている。イラクのラリシュにあるムサフィルの墳墓が信仰の中心地であり,例年の巡礼地とされる。『キテバ・ジルウェ(黙示録)』と『ミスヘファ・レシ(創世記)』の二つの聖典をもつ。

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