ヨーロッパなどの国際金融市場に預けられている外貨建て資金の総称。たとえば、アメリカの居住者または非居住者がアメリカ以外の国の銀行に預けたドルがユーロ・ダラーであり、イギリス以外の国の銀行に預金されているポンドがユーロ・ポンドである。同様にユーロ・スイス・フラン、ユーロ円などがあり、これらをまとめてユーロ・カレンシーとよぶ。その中心となるのはユーロ・ダラーである。また、それらの資金が取引される市場をユーロ・カレンシー市場(略してユーロ市場)という。ここで「ユーロ」というのは、このような外貨預金が形成され始めたころに、主たる受信者となったのがヨーロッパ所在の銀行だったからであるが、今日ではかならずしもヨーロッパだけに限定しないで用いられる。
ユーロ・カレンシーは、1950年代の米ソ冷戦の激化に伴い、アメリカによる資金凍結を恐れてソ連や東ヨーロッパの中央銀行がドル預金をアメリカの銀行から西ヨーロッパの銀行へ預け替えたことに始まるといわれるが、その後アメリカ連邦準備制度の預金金利規制、西ヨーロッパ通貨の交換性回復(1958)、アメリカの国際収支の赤字などによってしだいにその額は増大した。60年代に入ってからも、アメリカやヨーロッパの国際金融市場の規制の存続ないし強化を背景に、規制のない自由なユーロ・カレンシーが注目され、世界の多くの銀行がこれに参加し、ユーロ・カレンシー市場は急成長を遂げた。ロンドンが中心となったのは、優れた国際金融の技術と伝統的な組織によるものである。70年代にはオイル・マネーの流入などがあってさらに拡大した。国際決済銀行(BIS)の推計によれば、ユーロ・カレンシーの取引規模(外貨建て債務)は、銀行間の債権債務を控除したネットnetの残高で、1960年代には100億ドル台であったのが、70年代末には8700億ドル台になり、95年末には5兆5000億ドル台に達している。
ユーロ・カレンシーは通常、非居住者などの顧客から銀行に吸収され、銀行はそれをより有利な他の金融市場へ回して運用する。取引は主として銀行間取引の形をとるが、最終的には、当初は主として貿易金融などに貸し出された。しかし、最近では豊富な資金源と借り替えが容易なところから長期の貸出やユーロ債にも応募するようになった。ユーロ・カレンシーの特色は、なによりも規制のない自由な資金である点にあり、貸出にあたっては多くは無担保で、他に比べて低利であるのも魅力である。このようにユーロ・カレンシーは国際金融で重要な役割を果たしており、通常は安全性、収益性を重んじて運用されるが、ひとたび国際政治経済不安が起こると投機に駆り出され、通貨不安をあおる存在ともなっている。
[土屋六郎]
『日本興業銀行特別調査室編『ユーロ・カレンシー市場』(1974・金融財政事情研究会)』▽『ジョージ・W・マッケンジー著、原亨他訳『ユーロカレンシーの経済学』(1979・文真堂)』▽『竹内一郎・原信著『国際金融市場』(1988・有斐閣)』▽『奥田宏司著『多国籍銀行とユーロ・カレンシー市場――ドル体制の形成と展開』(1988・同文舘出版)』▽『リチャード・N・クーパー著、武藤恭彦著『国際金融システム――過去・現在・未来』(1988・HBJ出版局)』▽『関岡正弘著『マネー文明の経済学――膨張するストックの時代』(1990・ダイヤモンド社)』▽『古海建一著『外国為替入門』改訂2版(1995・日本経済新聞社)』▽『尾田温俊著『国際金融の市場』(2001・晃洋書房)』
「ユーロ・ダラー」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これらは,国内金融市場と一体化した伝統的な国際金融市場と異なり,国境の制約を超えた新しい国際金融市場である。今日,ロンドンはユーロダラー市場の中心地であり,パリやフランクフルトにも活発なユーロカレンシー市場が存在する。その結果,ドル金融をロンドンに奪われたアメリカは,非居住者間の金融取引に租税や為替管理上の特典を与えているオフショア・センターoffshore centerとして,1981年ニューヨークに国際金融ファシリティInternational Banking Facilities(略称IBF)を設立した。…
…たとえばシンガポールや香港などにおけるいわゆるアジア・ダラー,日本の東京ドル・コール資金,カナダの金融市場で取引される米ドル資金なども含まれる。同様に,このほかユーロマルク(ドイツ以外の金融中心地で取引されるドイツ・マルク資金),ユーロポンド,ユーロ円などがあり,ユーロダラーを含めてユーロカレンシーEuro‐currenciesと総称される。しかし,ユーロダラー以外のユーロカレンシーの取引は,ほとんどがヨーロッパ市場で行われている。…
※「ユーロカレンシー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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