リンタンパク質(読み)りんたんぱくしつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リンタンパク質」の意味・わかりやすい解説

リンタンパク質
りんたんぱくしつ

分子内にリン酸基をもつ複合タンパク質総称で、ホスホプロテインphosphoproteinともいう。リン酸基は、ポリペプチド鎖中のセリンスレオニンもしくはチロシンヒドロキシ基エステル結合している。リン酸化は、一般にATP(アデノシン三リン酸)をリン酸基供与体とし、プロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)が転移反応を触媒する。逆に、脱リン酸はフォスファターゼによって行われる。

 従来、牛乳のカゼイン卵黄ビテリンホスビチンなどリン酸含量で1%あるいはそれ以上のものをリンタンパク質とよんだ。これらは代謝的に安定で、生体あるいは胚にとっての栄養源として重要である。

 これとは別に、1980年以降、きわめて低リン酸含量のタンパク質が、そのリン酸化にあずかるプロテインキナーゼとともに、細胞増殖あるいは代謝調節の中心的役割を担っていることが判明し、新たな注目を集めるようになった。この群のタンパク質は常時リン酸化されているわけではなく、細胞の置かれた条件に応じてリン酸化され、タンパク質1分子当り1~3個のリン酸基が付加されるにすぎない。しかし、リン酸化を受けることによるタンパク質の構造変化は顕著であり、必然的にその機能の変化をもたらす。酵素活性を有するタンパク質が多く、不活性型前駆体の活性化、逆に活性酵素の不活性化のいずれの調節もある。調節に関係するタンパク質の多くがそうであるように、この群のタンパク質は不安定かつ短命である。これらのタンパク質のリン酸化にあずかる酵素としては、チロシンキナーゼCキナーゼが著名であり、いずれも細胞膜と結合して分布する。ホルボールエステルとよばれる発癌(はつがん)プロモーターの最初の結合部位はCキナーゼである。また、ホルモンEGFなどの細胞増殖因子レセプター、あるいは癌遺伝子産物そのものがチロシンキナーゼ活性を示す。これらの事実は、細胞の分化・増殖、細胞内外の情報伝達あるいは発癌の機構に、タンパク質のリン酸化が密接に関与していることを強く示唆するものである。

[入江伸吉]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「リンタンパク質」の解説

リンタンパク質

 リンを含むタンパク質で,牛乳中のカゼイン,卵黄中のビテリンなどがよく知られているが,細胞内にも多数のリンタンパク質がある.リン酸エステルの相手のアミノ酸は,セリン,トレオニン,チロシンがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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