改訂新版 世界大百科事典 「ルサンティマン」の意味・わかりやすい解説
ルサンティマン
ressentiment[フランス]
怨恨または復讐(ふくしゆう)感情と訳される。弱者はその弱さゆえに強者に対する不満や憎悪をストレートに表出することができないために,内攻的にうっ積した不満や憎悪は,強者に対する怨恨ないし復讐願望となって意識下に抑圧されている。これがルサンティマンである。圧制的な支配者に対する大衆の行動や思想には,表面上いかに高貴な倫理性が標榜されていようとも,しばしばこの屈折した怨みの激情ないし復讐欲がこめられている。F.W.ニーチェはキリスト教道徳の核たる〈愛〉はユダヤ教に由来する憎悪,復讐の裏返しの精神的態度にすぎないとし,M.シェーラーはプロレタリアートの革命精神をとり上げ,少数支配者に対する羨望(せんぼう)から生じた多数者(大衆)のルサンティマンの発現であるとして,いずれも大衆側ルサンティマンが結晶したものだと主張した。意識下に抑圧されているいわば〈本音〉を暴露していくこのニーチェらの考え方は,その後深層心理学の発展によって,合理化論ないし防衛機制論として体系化されている。ただし,精神分析学も含めて,暴露趣味的な心理主義については批判も多い。
執筆者:大村 英昭
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