一夜松伝説(読み)いちやまつでんせつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「一夜松伝説」の意味・わかりやすい解説

一夜松伝説
いちやまつでんせつ

自然説明伝説の一つ。植えてまもない小株が、一夜のうちに大樹となり、貴人の休み所を雨にぬれないようにしたとか、隠れることができた、という異常成長譚(たん)。『日本伝説名彙(めいい)』によれば、菅公(かんこう)配流のときに、寃罪(えんざい)が晴れるなら古木になれと植えた松の苗木が一夜のうちに繁ったという伝承を伝える(福岡市住吉(すみよし)町)。住吉社の境内にあったそれは、社殿造営にじゃまだったので切ろうとしたら1、2日でまっすぐになったという(この種の伝承を「起松(おきまつ)」ともいう)。『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』萩原(はりはら)の里の条に、その地名起源伝説として神功(じんぐう)皇后三韓遠征の帰途ここに宿った際に一夜のうちに萩(はぎ)が生えた、と記す。そのほか「一夜松原」という、一夜のうちに数千の松が生えたといった伝承も、武将や合戦譚に結び付いて伝承されている。

 木の伝承ばかりでなく、一夜に寺を築いたとか、池を掘ったというのもある。「一夜山」というのも、天皇御遷都の地を捜しているという噂(うわさ)を聞いて地元の鬼がじゃまをするために一夜に山を築いた(長野県長野市戸隠(とがくし)。『日本伝説大系』7巻)という伝説だが、すべて同類である。いずれも古代的神人や貴人、権力者などへの畏怖(いふ)感が大掛りな伝承を生み、それぞれ時代相に迎合して、もっともらしい合戦譚や慈善事業の話に結び付いて屈折してきたものである。

[渡邊昭五]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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