慈善事業(読み)ジゼンジギョウ

世界大百科事典 第2版の解説

じぜんじぎょう【慈善事業 charity work】

慈善あるいはそのいくぶんとも組織的な形態を意味する慈善事業は,宗教的・感情的動機に基づく善行であり,貧民の救済や病人に対する施療などをその内容とする。慈善はユダヤ教キリスト教においても,また仏教においても重要な実践徳目の一つとして位置づけられてきた。しかしながら,それは近代市民社会の成立とともに宗教的背景を薄れさせ,産業革命以降になるといっそうその世俗化が進み,公的救済施策が未成熟な時期においては友愛組合などの相互扶助組織とともに民間の自発的な救済事業の一翼を担って重要な役割を果たした。

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大辞林 第三版の解説

じぜんじぎょう【慈善事業】

宗教的・道徳的動機に基づいて、保護者のいない児童・病人・老弱者・貧民などの救済のために行われる社会事業。国家による福祉事業と違い、民間により行われるものをいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

慈善事業
じぜんじぎょう
charity work

慈善の理念に基づく組織的活動をいう。慈善とは元来は仏教用語であり、慈悲の実践を意味する。この慈は真実の友情であり、悲は優しさである。慈悲の実践は、他人を自己のうちに転回せしめること、対象において自己を生かすことであるとされる。charityが意味するキリスト教的慈善は、さらにカトリック的慈善とプロテスタント的慈善とに分かれる。カトリック的慈善は、あらゆる被造物は神に似ているから愛すること、汝(なんじ)自身と隣人を神に似ているから愛し、ますます神に似るように形成するべく努めることに本質があるとされる。また、プロテスタント的慈善は、人間はイエスによって目を注がれ、愛されており、そのような自分と他者に対する自己愛と隣人愛とが結合することに基礎づけが求められている。
 貧者や病者に対する慈善行為は、歴史の早い時期から存在していた。しかし、慈善事業とよばれる組織的活動は、産業革命前後からおこってくる。それは、慈善行為に対して、組織性、科学性、社会性をもち始めたところに特徴があった。すなわち、慈善事業においては、行為主体が個人ではなく組織であり、対象がもつ問題の生成やその予防・解決のための事業効果を科学的に理解していこうとする志向があり、ひいては事業を行う社会的責任の思想の萌芽(ほうが)があった。ただし、最後の社会性については、歴史家たちの判断に分かれがあり、それを認められないとするものもある。
 慈善事業の典型的展開は、産業革命期のイギリスやアメリカにみられる。それは、その時期の都市社会の下層における貧困問題に対する社会的対応であり、その思想的基礎づけは、中世のキリスト教的慈善が18世紀の啓蒙(けいもう)思想が主張した博愛の理念によって、より豊かにされたものによっていた。この慈善事業がのちに近代社会事業に発展し、さらに社会保障、社会福祉、福祉国家へとつながっていく。ただし、日本では、慈善事業は、感化救済事業を経て近代社会事業へと発展するので、イギリスやアメリカと同じ発展段階がみられるわけではない。しかし、いずれにせよ、このような歴史的経過があったので、社会事業や社会保障の時代になっても、それらに関する人々の認識に、慈善事業のイメージが混じり込み、それらの認識を部分的に誤らせるということがある。[副田義也]
『吉田久一・高島進著『社会事業の歴史』(1964・誠信書房)』

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世界大百科事典内の慈善事業の言及

【イギリス】より

…下層民たちは職にありつけなかったが,救貧法の屈辱にも耐えられなかったのである。この事件をきっかけとして,多数の個人的援助が行われ,慈善事業が活発となった。人は自助によって生活するが,すべての人が自助によって救われるわけではない。…

【女性運動】より

…その要求を組織的運動を通じて実現しようとしたのが女性運動である。女性の要求が生活全般にわたるものであることから,女性運動の内容も,家事の合理化,慈善事業,売春禁止,教育における男女平等,職業労働における男女平等,公法上・民法上の諸権利,反戦・平和など多様である。これらの女性運動は,女性の生きるべき状態をつくりだそうという共通の理念をもっているとはいえ,現状の把握と将来の展望について意見が一致しているのではない。…

【中国】より

…それに答えるのは彼らのまず第一の義務であった。さらにその社会的地位に伴う義務として郷紳は,協議して恒常的もしくは臨時的な慈善事業,橋梁や堤防の修理・改築,争乱時における郷土防衛などの企画や遂行を指導・担当しなければならない。官は税金徴収と裁判など以外,例えば日本の諸藩のごとく殖産をすすめ指導するなどのことはほとんどなく,人民を完全に放っておいたので,〈官は民と疎,士は民と近し,民の官を信ずるは士を信ずるにしかず〉で,人民は郷紳の指導のもとに〈自治〉体制をとらざるをえなかったのである。…

※「慈善事業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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