改訂新版 世界大百科事典 「一﨟」の意味・わかりやすい解説
一﨟 (いちろう)
仕官人の年功を数える語で,最長老を一﨟という。六位蔵人の首席,鎌倉幕府の当番人の筆頭などを一﨟と呼んだが,転じて年功を積んで長老となった者をさす(たとえば,〈大人(おとな)〉の項目を参照)。
芸能の分野では,雅楽の舞楽や東遊(あずまあそび)などの舞人(まいにん),それに仏教の法会に出仕する職衆(しきしゆう)の中で,もっとも上位の役をいう。2人以上の舞人が奏舞し,また,導師以外に数人あるいはそれ以上の職衆が出仕する場合には,1人ずつの序列が決められ,上位から順に一﨟,二﨟,三﨟,……と称する。上﨟,中﨟,下﨟(げろう)(または浅﨟(せんろう))とも用いられ,登退場の順序や着座の位置などは,この順位によって決定される。法会においては,担当する役務もこの序列にもとづいて配分される。たとえば,四人立(よにんだち)の左方の舞楽では,一﨟から順に登場し,客席から見て舞台上の右手前,左手前,右奥,左奥の位置につき,そこを舞座とする。退場は逆に,下﨟から順にする。法会では,たとえば下﨟から上堂(じようどう)し,本尊に向かって右奥,左奥,……と着座して,一﨟は左手前に位置する。一﨟が回向(えこう),二﨟が唄(ばい),三~四﨟が後讃,四~五﨟が散華(さんげ),中﨟が前讃と経,浅﨟が奠供(てんぐ)と祭文,などというような分担で法会が終了し導師が下堂(げどう)すると,職衆も上﨟から下堂する。
執筆者:蒲生 郷昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報