七賢人物語(読み)しちけんじんものがたり

改訂新版 世界大百科事典 「七賢人物語」の意味・わかりやすい解説

七賢人物語 (しちけんじんものがたり)

ヨーロッパ中世の枠物語の一つ。インド起源を説く学者もあるが,現存最古のものは8世紀のアラビア語作品である。インドの賢者シンディバッドに託された王子が,再婚した父王に呼び戻されることとなって,星占いをした賢者に,7日間絶対の沈黙を守らぬと命が危ないと告げられる。王宮に戻った王子は若い新女王に言い寄られ無言のままはねつける。これを恨んだ女王は王子が女王に乱暴を働こうとしたと王にざんげんし,王は王子を死刑に処することを命じるが,7人の賢者が次々と出て来て〈女性の言を盲信して誤まる権力者〉のたとえ話を物語る。女王はそのたびに〈側近の言をいれて誤まる王〉の話をし,王はそのつど意見を変える。こうして7日たち禁の解けた王子が自ら事実を告げ,女王が断罪される。この物語はヨーロッパで広く好まれ,ギリシア語,ラテン語,フランス語,イタリア語,スペイン語,英語,ドイツ語,北欧諸語等で残されている。〈ローマ七賢人物語〉または〈ドロパトス物語〉の名でも知られる。後者では賢人はウェルギリウスになっている。この枠の中で語られる説話は数も内容も異なり,東方とヨーロッパに共通なものは一,二にとどまる。七賢人物語中の説話は,ドイツの学者ゲデケGoedekeによってそれぞれCanis(忠犬),Gaza(宝物),Puteus(井戸)等のラテン名が付けられている。このうちGaza等は日本の《今昔物語集》にもヘロドトスの《歴史》にも出てくる盗賊談である。揺籠を狙う蛇を退治した犬が子どもを咬み殺したと誤解されて打ち殺されるという世界的に存在する説話(Canis),17世紀フランスのラ・フォンテーヌの《コント集》や中国の《今古奇観》にも類話のある再婚するために亡夫の墓を扇であおいで早く乾かそうとしている未亡人の話(Vidua),ボッカッチョの《十日物語》中のいくつかの説話等,説話の交流の面でも興味深い。中世フランス語の七賢人物語には《マルク・ド・ローマ物語》をはじめ《カッシオドルス物語》《ローラン物語》《カノール物語》等多く続編も書かれ,一大物語群をなしている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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