改訂新版 世界大百科事典 「万国史」の意味・わかりやすい解説
万国史 (ばんこくし)
広義には世界諸国の歴史をさすが,日本の教育においてはとくに明治初期に学校で使用された諸外国史の教科書をさす。明治初期は欧米先進諸国の科学・技術の導入だけでなく,その歴史的背景の学習への要求も強く,ここから世界諸国,とくに欧米諸国の歴史としての万国史が学校の歴史教育でとりあげられた。文部省も1874年(明治7),師範学校編《万国史略》(全2巻)を出したが,これは1872年刊行の《史略》(全4巻,巻一〈皇国〉,巻二〈支那〉,巻三・四〈西洋〉)の巻二以下に加筆したもので,分量は西洋が中国の4倍以上であった。すでに福沢諭吉の《西洋事情》や《世界国尽》が万国史の役割を果たしていたが,これらの教科書はアメリカのグッドリッチの《パーレー万国史Parley's Common School History of the World》が参考にされることが多く,寺内章明の《五洲記事》(1873序文)もこれを翻案しており,76年には600ページという大部の翻訳書《巴来(パーレー)万国史》(文部省)が刊行された。万国史を授業でとりあげればアメリカの独立やフランス革命を避けて通ることはできず,自主・自由・平等など近代精神をも教えることになった。自由民権運動高揚に対して政府は教育方針を変更し,81年の小学校教則綱領で歴史教育の目的を尊王愛国の精神の養成におき,その目的達成のため内容を日本史に限定した。翌82年学制に関する勅諭でこの変更がよしとされ,子どもの視野を世界に広げる役割を果たしてきた《万国史》は学校教育から姿を消すことになった。
執筆者:山住 正己+臼井 嘉一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報