大江健三郎(1935- )の小説。《群像》1967年1月号から7月号に連載,同年9月全面補訂し講談社より刊行。都会の生活で挫折しかかっている兄弟が,故郷である四国の谷間の村を再訪して,自分たちの〈根〉を確かめ,立ち直りのきっかけをつかもうとする。しかし兄弟は,百年前の百姓一揆にまつわる曾祖父兄弟の伝説につきまとわれ,それを想像力によって確認していくことになる。弟は,曾祖父の弟が指揮した暴動を追体験しようとスーパーマーケットの略奪騒ぎを扇動するが,自己を解放しえないまま自殺する。兄は,弟の子を妊娠した自分の妻と生活をやり直す決心をする。大江健三郎の代表作と目される作品で,第3回谷崎潤一郎賞を受賞した。
執筆者:柘植 光彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大江健三郎の長編小説。『群像』1967年(昭和42)1~7月号に連載。のち、加筆して同年9月講談社刊。東京の大学教師の蜜三郎(みつさぶろう)と、アメリカから帰った弟の鷹四(たかし)とその仲間たちが、四国の森深い谷間の村へ帰ってゆく。兄弟のアイデンティティを求めるためであるが、彼らの祖父がかかわった幕末の農民一揆(いっき)の伝承について、非行動的な兄と暴動願望者の弟とはそれぞれ別様な想像力を働かせ、その対立拮抗(きっこう)を通して歴史認識の複眼を呈示している。結局弟は自己と被抑圧村民の解放を目ざして暴動を起こして死に、兄は認識=表現者の自覚に達する。60年安保闘争の情念を含みつつ、文学者のあり方を示した話題作。
[亀井秀雄]
『『万延元年のフットボール』(講談社文庫)』
「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...
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