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情念 じょうねんpassion

翻訳|passion

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

情念
じょうねん
passion

語源的には受動を意味し,同じ passionの語は中世以後,キリストの受難をもさした。古くからはその激しい効果のゆえに恐れられ,デモクリトスはこれを魂の病理として知による解放を求め,プラトンも情念を理性と対置した。アリストテレスは心理学的にとらえて,心の動きをすべて情念とみる一方,これを魂の恒常的なあり方である徳や悪徳と区別した。ストア派は悪徳と区別しつつも,情念を魂の病とみて,その欠如としてのアパテイアを賢者の徳とした。トマス・アクィナスは総合的研究を行い,「求的」「闘争的」の2つに分けたあとで,対象の善悪,在不在に従って体系的な分類を樹立した。近世になるとストア派の復活とともに情念と悪徳との対比が理論史の中心を占めるようになる。デカルトはすべての魂の受動を広い意味での情念としつつ,狭い意味でのそれを情動に限定して恒常的な傾向性を除外した。しかし感情生活を重視する 18世紀になると,恒常的欲求心が分離し,しかももはや魂の病気とみられることはなく,むしろ創造力の源泉として積極的に評価される方向をとる。ライプニッツを転機として,情念の語はこのような恒常的な活動,各個人の支配的な傾向性を意味するようになる。そして,従来その語がさしていた情動的反応にはフランス語では émotion (情動,情緒) の語が,ドイツ語では Affektに対して Leidenschaftがあてられるが,英語では passionはまだデカルト的な古い意味を保存している。かくして情念は「情熱」に接近し,カントがこれを非理性的な狂気として批判しはしたが,天才の病理性すらあがめるロマン派の思潮のなかでは圧倒的な支持を得た。

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デジタル大辞泉の解説

じょう‐ねん〔ジヤウ‐〕【情念】

感情が刺激されて生ずる想念。抑えがたい愛憎の感情。「情念の炎を燃やす」

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世界大百科事典 第2版の解説

じょうねん【情念 passion】

心理学上の術語としては,感情一般のなかに属し,狭義の〈感情〉や〈情動(エモーション)〉と区別され,激情を意味する。つまり〈感情〉が強まりそれがはっきり身体に現れるほどになったとき〈情動〉と呼ばれ,またさらにいっそう激化して感情の自然の流れがせき止められ苦悩にさらされるようになるとき〈情念〉と呼ばれる。だが情念の問題は,それが同時に〈受動〉〈受苦〉〈受難〉を意味することに示されるように,心理学を超えて,もっと広くてダイナミックな人間論的な広がりをもっている。

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大辞林 第三版の解説

じょうねん【情念】

深く心に刻みこまれ、理性では抑えることのできない悲・喜・愛・憎・欲などの強い感情。

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世界大百科事典内の情念の言及

【感情】より

…ところが一方,そのように情動は生理的混乱の意識への反映であり無意味な意識現象だとする見方に対して,怒りやヒステリーの発作でさえ,順序だった行動によって対処しえぬ状況を避けようとするそれなりに意味のある行動(P.ジャネ),象徴的行動(S.フロイト),その状況を虚構的に変容しようとする魔術的行動(J.P.サルトル),つまりは意識の全体的な態度だと見る見方が提出されている。一般的に言って,passion(情熱),emotion(情動),Gefühl(感情)といった言葉がもともと〈運ばれる〉〈動かされる〉〈触れられる〉という受動的意味合いをもつことからも,これが受動的な心的現象であること,またわれわれの健常な意識がつねになんらかの感情的色づけを与えられていること,これは確かである。さらに,古代日本におけるように〈もののあわれ〉に知的認識などよりも深い世界開示の力を認める文化もあるし,ニーチェのように〈陶酔〉に根源的な芸術衝動を認める哲学者もおり,一般に芸術創作にあって感情が基本的役割を演じていることを思えば,感情にすぐれた開示能力のあることも確かである。…

【デカルト】より

…そこでは心身が互いに働きかけ,互いに動かされ,たえず能動と受動の関係にある。身体の働きかけを受ける精神の受動passionが情念passionであり,情念のメカニズムは体内の動物精気の動きによって生理学的に説明される。一方,精神の能動は意志の働きである。…

【フランス演劇】より

宗教劇は,10世紀にキリスト降誕祭と復活祭の典礼にラテン語による対話を加えた教会堂内での典礼劇に始まり,12世紀後半のフランス語のみによる準典礼劇(《アダンの劇》等)を経て,13世紀には北フランスのアラスに代表される新興商工業都市の,町民階級自身の知識人による風俗劇的要素の濃い劇作術を生み(《アラスのクルトア》,J.ボデル《聖ニコラ劇》,リュトブフ《テオフィルの奇跡劇》等),最後に,14世紀以降,16世紀中葉を絶頂とする〈聖史劇(ミステールmystère)〉に結実する。ゴシック時代の都市を挙げての一大祝典劇であるこれら大聖史劇は,受難信仰とともに〈受難劇(パッシヨンpassion)〉として,次いでパリを中心にした聖母信仰の隆盛とともに〈聖母奇跡劇miracle de Notre‐Dame〉として流行し,ともに専門の上演組合をもち,1402年には最初の常設劇場さえできた。その上演は,〈屋台(マンシヨン)〉と呼ぶ演技場(ば)を連ねた野外の並列舞台で行われた。…

【感情論】より

…広義の感情についての理論的な考察。広義の感情のなかには,情動,情念,それと狭義の感情が含まれるから,感情論には,情動(情緒)論や情念論も含まれることになる。そこで,情動と情念と感情の区別であるが,まず情動とは,身体的なものにまで影響を及ぼすような強い感受的状態のことである。…

【心】より

…知,情,意によって代表される人間の精神作用の総体,もしくはその中心にあるもの。〈精神〉と同義とされることもあるが,精神がロゴス(理性)を体現する高次の心的能力で,個人を超える意味をになうとすれば,〈心〉はパトス(情念)を体現し,より多く個人的・主観的な意味合いをもつ。もともと心という概念は未開社会で霊魂不滅の信仰とむすびついて生まれ,その延長上に,霊魂の本態をめぐるさまざまな宗教的解釈や,霊魂あるいは心が肉体のどこに宿るかといった即物的疑問を呼び起こした。…

【デカルト】より

…41年には形而上学の主著《省察》が,ホッブズ,アルノー,ガッサンディらの〈反論〉と著者の〈答弁〉を付けて刊行され,44年には自然学をも含むその体系のほぼ全容を示す《哲学の原理》が出版された。また43年以後ファルツ選挙侯の王女エリーザベトへの書簡を通じて道徳に関する省察を深め,そこから49年の《情念論》が生まれた。そしてこの最後の作品出版の年の秋,スウェーデンのクリスティーナ女王に招かれてストックホルムに行き,翌年2月肺炎のため同地で急死した。…

※「情念」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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