日本大百科全書(ニッポニカ) 「三輪自動車」の意味・わかりやすい解説
三輪自動車
さんりんじどうしゃ
おもにオートバイの車輪を3輪とした自動車。三つの車輪をもつ自動車の歴史は古く、今日知られる限り史上初めて機械力で走った1769年のキュニョーの蒸気自動車も、1886年のベンツの初のガソリン自動車も前1輪、後2輪の三輪車であった。これは、前2輪を操向するアッカーマン式ステアリングの原理が知られていなかったためである。四輪車の普及後も、軽便な小型配達車などには、小回りがきき、狭い道へも乗り入れやすい三輪車が使われた。本来四輪車より小型なので経済的なうえに、多くの国で税制上の優遇処置を受けていた。たとえばイギリスでは現在でも三輪車はサイドカー付きオートバイとして扱われている。ヨーロッパ型はオートバイの前輪を2輪にし、その間に荷台を備えていたが、アメリカ型は後ろを2輪にし、後部に荷台を置いていた。
日本ではアメリカからの輸入が多かったため前1輪、後2輪型が定着した。日本での製造は1920年(大正9)ごろから試みられていたが、本格的なものがつくられ、実用化されたのは35年(昭和10)ごろからで、オート三輪の名で親しまれた。第二次世界大戦後は日本の復興に大いに貢献し、戦争直後の一時期には簡単な客室を載せてタクシーなどにも使われ、セダン型の三輪車もつくられた。究極的には、密閉キャビンに円ハンドルをもち、水冷4気筒1500ccエンジンを備えた2トン積みの大型車もつくられた。小型三輪車には全長の制限がないので、長尺車もつくられ、材木運搬などに重用された。一方、360cc、350キログラム積みの軽三輪も盛んに使われた。しかし四輪車に比べると乗り心地が悪く、荷傷みが激しい、安定性が低い、などの理由で、1960年代中ごろには姿を消してしまった。
[高島鎮雄]