日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンツ」の意味・わかりやすい解説
ベンツ
べんつ
Karl Friedrich Benz
(1844―1929)
ドイツの機械技術者で、今日の自動車の発明者の一人。ドイツ南西のバーデン・ウュルテンベルク州の、フランスのロレーヌに近いカールスルーエに生まれる。家は代々町長と鍛冶(かじ)屋を兼ね、父は鉄道の機関士だったが彼の生まれる4か月前に肺炎で死去。母に育てられ、19歳でカールスルーエ工科大学を卒業して数学と機関設計の学位を得た。各地を転々として働いたのちマンハイムに定住、28歳の1872年、のちに内助の功で有名になるベルタBertha Benz(1849―1944)夫人と結婚する。ブリキ工作用機械の製造販売などを行うが、1878年の暮れ、独力で2ストローク・ガソリンエンジン(ツーすとろーくがそりんえんじん)を完成、1883年10月1日、ベンツ&C・ライン・ガスエンジン工場を設立、エンジンの製造を開始した。
1884年には4ストローク・エンジン(フォーすとろーくえんじん)を製作、それを用いた三輪車は1886年1月26日「ガスエンジン駆動の乗り物」としてドイツ帝国特許第37435を与えられた。これが今日史上初の実用的なガソリン自動車とされているベンツの三輪車で、1986年に世界が自動車100年を祝う根拠になった。1893年には四輪のビクトリア、翌1894年には小型四輪車のベロを完成、世紀の変わり目にかけての世界中の自動車の設計に絶大な影響を与えた。1926年、ベンツ社は最大のライバルたるダイムラー社(車名メルセデス)と合併、ダイムラー・ベンツ社(車名メルセデス・ベンツ)となる。ベンツは合併後の新会社にも役員としてとどまった。
[高島鎮雄]