世間を旅しては生活する人々、あるいはその際の豊かな経験をもとに世事を巧みに処理する人、さらに悪事などによって渡り歩く人々をいう。近世後期から近代にかけて農村社会の閉鎖性が崩れ、出稼ぎなどで各地を旅して生活する人々が増加すると、このなかから、世情や世間話に通じ、農民のさまざまな依頼事を引き受けて世話をする人々が生まれた。彼らはその性格によって世間師、公事師(くじし)、口利きなどと称された。いずれも閉鎖的な農村社会では得られない、豊かな経験と民衆をひきつける強い個性をもっており、しばしば訴訟や百姓一揆(いっき)の指導者としてあげられた。文字を通じて世界観や自我を構築することが困難であった前近代の民衆の一つの自己形成のあり方として注目される。
[白川部達夫]
『宮本常一著『忘れられた日本人』(岩波文庫)』
…しかし,一方では彼らは昔話,世間話や新しい情報の運搬者でもあった。世間師(せけんし)の性格もあったので,婚姻の仲人にたのまれたり,すぐれた技量や能力によって村人の尊敬をかち得て,死後に伯楽大明神の名で碑を建ててまつられた者もあった。しかし,中国山地の事例からみれば,実際の活動領域は意外に限られ,その勢力範囲外では勝手に営業することは認められなかったらしい。…
…彼らは村落に一時的に滞在して,村人にさまざまな物資や情報を提供してくれる存在であった。村落の秩序外にある世間師の彼らは危険な存在として警戒されたが,同時に村人が自給できないものや珍しいものをもたらしてくれ,また世間の動きを教えてくれる人々として歓迎され,歓待された。いずれの他所者についても,村落秩序が弛緩するにつれ,制度的に区別したり差別することはなくなってきたが,意識としては現在なお強いものがある。…
※「世間師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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