日本大百科全書(ニッポニカ) 「中村征夫」の意味・わかりやすい解説
中村征夫
なかむらいくお
(1945― )
水中写真家。秋田県南秋田郡昭和町(現潟上(かたがみ)市)生まれ。秋田市立高等学校(現秋田県立秋田中央高等学校)卒業後、1963年(昭和38)に上京。家庭電化製品販売店に1年間勤務する。その後独学で写真とダイビングを学び、1968年にマリン雑誌の写真コンテストに初入選する。同年水中写真撮影のプロダクション「水中造形センター」に入社、国内の海を中心に撮影を行う。77年退社し、フリーランスの写真家として活動を始め、世界70か国の海を撮影する。その後撮影プロダクション「スコール」開設、同代表。
国内外の海や自然、人々、そして環境を含め精力的に取材し、数多くの話題作を発表する。ライフワークの東京湾をはじめ、水俣(みなまた)湾、空港建設で揺れた白保(しらほ)(沖縄県石垣島)、ナホトカ号の重油流出事故(福井県坂井市)、北海道奥尻島の津波(中村自身も遭遇した)からの復興、長崎県諫早(いさはや)湾など、社会性のあるテーマにも果敢に取り組み、水中の報道写真家としても定評がある。またスチールのみならず、テレビコマーシャルのビデオも多数手がける。劇場用映画やハイビジョン映像でもその撮影技術は高く評価されている。講演および出版物、テレビ、ラジオなどさまざまなメディアを通して、海の魅力と環境問題を伝えつづけている
1988年、写真集『全・東京湾』『海中顔面博覧会』(ともに1987)により木村伊兵衛写真賞を受賞する。また、1990年(平成2)に刊行した写真集『白保』をもとにした映画『うみ・そら・さんごのいいつたえ』(監督椎名誠。1991)の撮影を担当する。1994年NHKラジオドキュメンタリー「鎮魂奥尻・水中写真家中村征夫の証言」により文化庁芸術作品賞、ビデオ作品『東京湾・江戸前生物の海中劇場』により通産省マルチメディア'94ビデオ部門映像特別賞、1996年写真集『カムイの海』(1995)により東川(ひがしかわ)町国際写真フェスティバル特別賞受賞。
そのほかの主な著書に『さんごしょうのうみ』(1977)、『ありがとう 海の仲間たち』(1990)、『ガラパゴス』(1992)、『海のなかへ』(1996)、『熱帯夜』(1998)などがある。
[関次和子]
『『さんごしょうのうみ』(1977・世界文化社)』▽『『海も天才である』(1985・情報センター出版局)』▽『『全・東京湾』『海中顔面博覧会』(ともに1987・情報センター出版局)』▽『『白保』(1990・情報センター出版局)』▽『『ありがとう 海の仲間たち』(1990・東海大学出版会)』▽『『ガラパゴス――太古を伝える野生』(1992・集英社)』▽『『海のなかへ』(1996・小学館)』▽『『熱帯夜』(1998・小学館)』▽『「ネイチャー・ワールド――地球に生きる」(カタログ。1997・東京都写真美術館)』