水中写真(読み)すいちゅうしゃしん(その他表記)underwater photography

日本大百科全書(ニッポニカ) 「水中写真」の意味・わかりやすい解説

水中写真
すいちゅうしゃしん
underwater photography

水中カメラを用いて水面下を撮影した写真水中写真の歴史はかなり古く、1856年イギリス人のペンニーが撮影したものが最初といわれ、また93年にフランス人のルイ・ブータンがダイバー用の水密カメラをつくって、地中海で水中撮影に成功したことが知られている。日本でも昭和初期には海軍で水中撮影をしているが、すべてヘルメット潜水での撮影であったため、水中での行動の不自由さが大きな障害となっていた。しかし第二次世界大戦後のスキューバダイビング器材の普及発達と、優れた性能の水中カメラの開発によって、水中撮影技術が急速に進歩し、写真の一分野を築くに至った。その後、趣味として水中写真を楽しむ人が増え、多くのレジャーダイバーが水中撮影を楽しんでいる。

[舘石 昭]

水中カメラ

普通のカメラは空気中用なので、そのまま水中で使うことはできない。そのため水中写真では、「ハウジング」とよばれる専用の防水ケースを用いて、陸上用の一眼レフカメラを水中に持ち込むのが一般的である。ハウジングにはさまざまな種類が発売されており、プロ仕様の本格一眼レフカメラに対応するものから、レンズ付きフィルムに対応する簡易タイプのものなど幅広い。本格的なハウジングは内側に入れたカメラ本体のボタン、ダイヤルなどを外側から操作できるようになっており、陸上とほぼ同様の撮影を行うことができる。また一眼レフカメラのさまざまなレンズに対応できるようにもなっている。さらにハウジングには、加工しやすいアクリル素材やABS樹脂を使ったオーダーメイドのものも広く使われている。

 1998年(平成10)にはデジタルカメラ用の防水プロテクタ(ハウジング)が発売された。デジタルカメラの高性能化、一般化に伴い、2000年ごろからデジタルカメラを水中に持ち込んで楽しむダイバーが急増している。

 また、本体そのものが水中で使用できるカメラもある。ニコンから1984年(昭和59)に発売されたニコノスV(2001年生産終了)は、水深50メートルまでの耐圧構造をもった水中カメラとしてよく知られている。ニコノスVは防水ケースをもたず、カメラ本体が防水ケースの役割を果たしており、大きさは陸上用の35ミリカメラとほぼ等しい。そして92年に発売された世界初の水中専用AF(オートフォーカスautofocus)一眼レフカメラのニコノスRS(1996年生産終了)がある。このカメラの専用レンズの描写力は、いままでの水中撮影機材のそれとは一線を画しており、多くのカメラマンに支持されている。この両機種はすでに生産終了となっているが、もっとも普及している水中撮影機材といえる。

[舘石 昭]

水中撮影方法

水中では空気中と光の屈折率が違うために、距離感覚が陸上のそれとはまったく異なるので、撮影者は水中での距離感覚に慣れることが重要である。不慣れだとピンぼけ写真をつくりやすい。

 太陽光線は水面で反射するので、水中ではどんなときでも水上よりも暗く、その深度に比例して明るさも落ちる。この減光の度合いは、水の透明度に大きく影響され、一定のデータはつかみにくい。水中撮影での露出の決定は、ニコノスVや一眼レフカメラの場合にはAE(自動露出)撮影にすべきである。しかし、大まかな目安としては、水深2メートルで水面上の露光の2倍くらい、水深5メートルでは4倍、水深10メートルでは8倍くらいの露光を与える必要がある。また水中の色彩は水中撮影において重要な問題である。水面を透過した太陽光線は、色別に吸収の度合いが異なる。たとえば赤色がもっとも吸収されやすく、透明な水中でも水深2メートルから3メートルで20%から30%に減り、水深10メートルではほとんど赤色は感じられない。青い光は、他の光より吸収が少ないため深い所まで届き、そのため水深20メートルでは青一色となる。水中撮影では水中ストロボを常時使用するが、これは、青一色の世界で生物たちが本来もっている体色をカラーフィルムに再現するためであり、光量不足を補う目的ではない。

 屈折率の違いから、陸上よりもレンズの焦点距離は長く、画角は狭くなり、被写界深度は浅くなる。たとえば陸上で焦点距離35ミリメートルのレンズは、水中では3分の4倍で約47ミリメートル相当になる。海水の透明度の関係で水中撮影の多くが被写体に接近して撮影するので、使用レンズは広角なものほど使いやすい。そのため水中写真では、フィッシュアイレンズ(魚眼レンズ)が頻繁に使用される。

 フィルムは高感度のものがよく、カラーの場合にはISO感度100以上のものがよい。

 スキューバをつけて、無重量に近い水中を遊泳しながらシャッターを切る場合が多いので、カメラぶれに注意しなければならず、とくに魚など動きの速い被写体には125分の1秒以上のシャッタースピードが適当である。

[舘石 昭]

『小林安雅著『水中写真入門――最新の機材とわかりやすい撮影テクニック』(1996・学習研究社)』『舘石昭編『マリンフォト入門――誰でも撮れる水中撮影術全公開』(1997・水中造形センター)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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