久方の(読み)ヒサカタノ

デジタル大辞泉 「久方の」の意味・読み・例文・類語

ひさかた‐の【久方の】

[枕]あめ・あま」「空」「月」「雲」「雨」「光」「夜」「都」などにかかる。
「うらさぶる心さまねし―あめしぐれの流れあふ見れば」〈・八二〉
「―月は照りたりいとまなく海人あまのいざりはともし合へり見ゆ」〈・三六七二〉
[補説]かかり方未詳。主に大空にかかわる語にかかるが、語義についても、「日射す方」の意、「久方・久堅」から、天を永久に確かなものとする意など、諸説がある。また、「ひさかたの光のどけき春の日に」〈古今・春下〉などは、一説に「日」そのものの意とする。

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精選版 日本国語大辞典 「久方の」の意味・読み・例文・類語

ひさかた‐の【久方の・久堅の】

  1. 語義およびかかり方未詳。
  2. 「天(あま・あめ)」にかかる。
    1. [初出の実例]「比佐迦多能(ヒサカタノ)(あめ)の香具山 利鎌(とかま)に さ渡る鵠(くび)」(出典古事記(712)中・歌謡)
  3. 「天(あめ)」と同音の「雨」にかかる。主に上代の例に見られる。
    1. [初出の実例]「妹(いも)が門(かど)行き過ぎかねつ久方乃(ひさかたノ)雨も降らぬか其(そ)を因(よし)にせむ」(出典:万葉集(8C後)一一・二六八五)
  4. 「天」と類義の「空」にかかる。中古以降の用法
    1. [初出の実例]「ひさかたのそらに心の出づといへば影はそこにもとまるべきかな」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
  5. 天空にあるものとしての「月」、また「月夜」にかかる。
    1. [初出の実例]「久方乃(ひさかたノ)月夜を清み梅の花心ひらけて吾が思(も)へる君」(出典:万葉集(8C後)八・一六六一)
  6. ( から転じて ) 時間としての「月」や、色の名「月毛」にかかる。
    1. [初出の実例]「ひさかたのつきげそこより渡るとも天(あま)のかはらげ影とどめてむ」(出典:康保三年順馬毛名歌合(966))
  7. 天空にあるものとして、天体の「日」に、天体に関係あるものとして「光」にかかり、転じて、時間としての「日」、「日」と同音を含む語や「昼」にもかかる。
    1. [初出の実例]「久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ〈紀友則〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春下・八四)
  8. 天空に関係のあるものとして、「雲」「雪」「霰(あられ)」にかかる。
    1. [初出の実例]「久方の雲の上にて見る菊は天つ星とぞあやまたれける〈藤原敏行〉」(出典:古今和歌集(905‐914)秋下・二六九)
  9. 天上のものとして、「岩戸」や「織女(たなばたつめ)」などにかかる。
    1. [初出の実例]「ひさかたの岩戸の関もあけなくに夜半に吹きしく秋の初風」(出典:曾丹集(11C初か))
  10. 月の中に桂(かつら)の木があるという伝説から、「桂」および、それと同音の地名「桂」にかかる。
    1. [初出の実例]「ひさかたの桂にかくるあふひ草空の光にいくよなるらん〈藤原定家〉」(出典:新勅撰和歌集(1235)夏・一四三)
  11. 「都」にかかる。永遠であるべきものとしての都をたたえてかかるか。
    1. [初出の実例]「久堅之(ひさかたの)都を置きて草枕旅ゆく君を何時とか待たむ」(出典:万葉集(8C後)一三・三二五二)

久方のの補助注記

「ひさかた」の語義については、「日射す方」の約とか、「日幸ひます方」の意、また、天の丸くうつろな形を瓠(ひさご)にたとえた「瓠形(ひさかた)」の意とする説などがあるが未詳。

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